第11話 ファンの壁

 僕ともなさんが結婚する。世の中には親子以上に年の離れた人同士で結婚する例も存在するし、下手したら相手のご両親より年上というパターンすらある。

 愛があれば年の差なんて関係ない。それは美しい理想だと思うし、僕自身も年齢差なんて関係なくもなさんが好きだ。でも……。


「さすがにクラスメートのお母さんと結婚って、AVの設定ではよくあるけどさ」


「きゃはは。小亀こがめくん本当にAV好きなんだね。っていうかママのことか」


 息子の同級生と禁断の関係を持つシチュエーションの作品にももなさんは出演している。

 ちょうど高校に上がってすぐくらいのタイミングで発売されたので自分の置かれた状況と似ていてすごく世界観に没入できた。まさか2年経って本当にエッチできるなんて考えてもみなかった。


「好きなのは認める。でも成人したと言っても経済的には父さんに頼り切りだしまだ高校生だし結婚なんて……」


「大丈夫。ママ、結構稼いでるから。その代わり家事はあんまりなんだよね。私がやっちゃうから成長しなくて」


「そういう問題じゃなくて」


 男が稼いで女が家事をするという考えの人はまだまだ多い。だけど世の中は変わって共働きであったり主夫として頑張る人だっている。それにもなさんが一家の大黒柱になるということは結婚したあとでも僕以外の人とエッチするわけで複雑な心境だ。


「じゃあどういう問題? 小亀こがめくんってバリバリ仕事したいタイプ? スタバでマックを使っちゃう系?」


「いや、そうじゃなくてさ。やっぱり年の差というか、あくまで僕はファンだから一線を超えちゃいけないような」


「アイドルがファンの人と結婚するなんて珍しくないよ? しかも小亀こがめくんからしたらママはおばさんの年なのに真剣に好きになってくれて。それに体の相性も良いみたいだし。きゃはは」


「か……体の相性って! そりゃ相手はプロなんだからどんな人とでも」


「ううん。相手もプロの男優さんならお互いに気持ち良く見せる方法がわかってるから映えるんだよね。だけど素人で童貞の小亀こがめくんとのエッチでママは気持ち良さそうだった」


「それは丹生うにゅうさんの感想で直接聞いたわけじゃないよね? ……まさか聞いたの?」


「きゃはは。さすがに私もそこまで踏み込めないって。女の子は本当に気持ち良い時は足の指が開いちゃうんだよ。小亀こがめくんとエッチしてる時のママは足の先までしびれるくらい気持ち良くなってた」


 映像だけが流れ続けるテレビ画面ではもなさんがエッチを続けている。男優さんの上にまたがり、もなさんはお腹の負担にならないように男優さんが一生懸命腰を上下に振っている。


 残念ながらもなさんの足先は映っていない。妊婦モノだけあってお腹やおっぱいが集中して映し出されていた。


「ちなみにこのママも本気で感じてるよ。ママ、本気の時は気持ち良すぎて目つむっちゃうんだ。覚えておくといいかもね」


 もなさんは目をぎゅっとつむり、音は消えていても激しく喘いでいるのが伝わるくらい口を大きく開けている。

 乳首はツンとそそり立ち、赤ちゃんでも吸いやすい形になっていた。

 

 丹生うにゅうさんがお兄ちゃんと呼ぶ男優さんは体を起こすと挿入したままもなさんの乳首に吸い付く。

 もなさんの母乳を飲めたのは、娘である丹生うにゅうさんとこの男優さんだけ。

 

 妊婦さんの撮影は気を遣うことも多いだろうから、もなさんがもう一度妊娠して撮影するとしても素人募集は掛からないと思う。

 母乳を吸えるのは子供と男優さんだけ。ファンには絶対に声られない壁が存在する。


 だけど、もし僕がもなさんと結婚したら?

 僕ともなさんの愛の結晶が誕生した時、お願いしたら飲ませてもらえるかもしれない。


「結婚したらママのおっぱいをいつでも吸えるんだよ? 超いい話じゃない?」


「……丹生うにゅうさんはいいの? 法律上は僕が父親ってことになるんだよ」


「うん。だって本当のパパはどこの誰だかママもわからないし。それよりもママが幸せになってくれる方が嬉しい」


 そう語る丹生うにゅうさんの目は一点の曇りもない。本当に心から母親の幸せを願っているのが伝わってくる。

 だから僕は確認しなければならない。もなさんが好きだからこそ、この点は絶対に譲れない。


「もなさんは結婚願望があるの?」


「わかんない。でもママ、彼氏がいたことないんだって。エッチする人はいたのにね。だからママに恋愛を楽しんでほしいなって」


丹生うにゅうさんの気遣いは素敵だと思うよ? 若い時から仕事一筋だったお母さんに青春を取り戻させるっていうのは。でも、それはあくまでも本人が望んでないと」


「今のママが望んでなくても興味を持つかもしれないじゃん。っていうか、興味を持たせるのが小亀こがめくんの仕事的な?」


「どういう意味?」


「アレが大きくて体の相性抜群の年下男子がママを恋愛の虜にするの。で、最終的に結婚してめでたしめでたし。幸せな家庭を築くのでした」


「待って無理! 僕、彼女いたことなんてないぞ」


「じゃあママと一緒だね。恋愛初心者同士、手探りで愛を深めていくのって青春じゃない?」


「それならもなさんと同年代の方が絶対いいって。娘のクラスメートだぞ? もなさんが年の差を気にするんじゃ……」


「もう、ママとエッチしたくせに弱気でどうするの。それに忘れてない? 小亀こがめくんがAVに出たって秘密を私がバラせること」


「くっ……!」


 金銭を要求されると想定していたからもなさんとの結婚を求められるのは意外過ぎて頭からずり落ちていた。

 僕は丹生うにゅうさんに弱みを握られている。少なくとも高校生でいる間は痛手になる。


 デジタルタトゥーと呼ばれるものは自分でどんなに削除しても絶対に誰かが保存したり記録するので一生付きまとう。

 ただ、その重みは大学生や社会人になれば変わってくる。


 お堅い会社なら過去のAV出演でクビになるかもしれないし、逆にすごい経験をしたと一瞬もてはやされるかもしれない。こればっかりはバレた時の環境による。


「絶対に結婚してほしいとは言わない。体の相性が良くても性格とか合わなかったら無理だし。でも、ママのことが一人の女性として好きな小亀こがめくんならチャンスがあるかもって思うんだ」


「……でも」


 丹生うにゅうさんが真剣にお願いの言葉を告げる度、頭の中にもなさんとの恋愛や結婚生活が浮かぶ。

 今は高校生とAV女優の関係も、年月が経てば僕も社会人になり少しは対等と胸を張れる間柄になっているかもしれない。けど、あくまでも可能性の話だ。


 僕がどんな進路になるか現時点ではわからないし、もなさんだってAV女優を続けているかも不透明。あまりにも生活に不安がありすぎる。


 それにもなさんと結婚するということは、同時に丹生うにゅうさんの父親になることも意味する。クラスメートであることを無視したとしても、彼女を立派に巣立ちさせる義務が生じる。果たして僕にそんなことができるのだろうか。


 憧れの女性と結婚するという夢のような話に心が踊ると同時に、それ以上に大きな不安に押し潰されそうなっていた。


「あっ! そういうことか。ごめんごめん。ママと結婚したら夫になるんだもんね」


 何かに気付いたように丹生うにゅうさんが声を上げた。その視線の先にあるテレビではAVが消音のまま垂れ流されている。

 男優さんはおむつを履いて、まるで赤ちゃんみたいにベッドに寝た状態でもなさんのおっぱいを鷲掴みにしながら吸い付いていた。

 もなさんはガラガラを振りながら男優さんの頭を撫でている。


小亀こがめくん、私と結婚したらママは小亀こがめくんにとってもママになるもんね。そっちの方が好みだよね。きゃはは」


「……え?」


 満足そうに笑う丹生うにゅうさんは反対に、僕は困惑のあまり言葉を失ってしまった。

 

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