第3話 撮影と母性1

 リビングで一人……ではなくスタッフさんと共にインターホンが鳴るのを座して待つ。ただスタッフの皆さんは気配を殺し物音一つ立てない。

 映像の外ではその存在を一切感じさせないプロの技を身を以て感じていた。


―ピンポーン


 まさかこんなタイミングで新聞の勧誘なんて来るはずがない。

 はやる気持ちを抑えきれずにモニターを確認しないで玄関へと向かう。


 ドアを開ければもなさんに会える。マスクをしていてよかった。気持ち悪いニヤケ面を隠せる。


 毎日開けている玄関のドアがこんなにも希望に溢れたものに見えるのはいつ以来だろうか。

 母さんが死んで、父さんが仕事に明け暮れて、そんな父さんを悲しませないように勉強や部活を頑張って……。

 

 充実はしているけど何かが物足りない毎日の繰り返しを告げる玄関を開けるとそこには一人の女性が立っていた。


「れおくんですか?」


 黒いロングスカートに白いブラウスというシンプルな服装。長い髪を束ねて右肩の方に流すヘアスタイルは醸し出される妖艶さをさらに引き立てていた。

 何より目を惹かれたのはボタンがほとんど閉められていない胸元だった。豊満なバストが作り出す谷間が惜しげもなく披露されている。


「あ、はい。はじめまして」


「はじめまして。れおくん」


 正確にはレオンだけど、深澤さんはさっきの打ち合わせでモザイク処理のことを念を押して説明していたのでプライバシー保護の観点だろうとすぐに理解できた。

 それに親しみを込めて呼んでもらっているような気がしてむしろ嬉しい。


「童貞卒業企画に応募してくれてありがとう。中、入ってもいいかな?」


「どうぞ、こちらです」


 カメラマンさんがリビングに向かうように手で指示をしている。それに従いもなさんを招き入れると彼女は予想外の行動に出た。


「手、繋いでいい?」


「ふぇ!?」


 繋いでいいと聞きながらもすでにもなさんの右手は僕の左手の指に優しく絡み付いていた。

 逆らう理由も断る理由もない。僕は今、もなさんと繋がっている。

 初体験は緊張で勃たないなんでウソだ。すでに臨戦態勢に突入していて今にも爆発しそうだった。


「れおくんの顔、ちゃんと見たいな」


「あ、そ、そうですよね。ずっとマスクしてるのも変ですよね」


 これから濃厚接触するのに飛沫やら何やらを気にするのは無駄というもの。お互いにマスクを外して改めてちゃんと対面する。


 マスクを外して露わになったもなさんの唇はぷるぷるなのが見た目で伝わるくらい艶やかで、今すぐキスしたいと思った。


「その制服、高校生だよね? 生徒手帳とか持ってる?」


「はい。ここに」


 テーブルの上に置いてあった生徒手帳を手に取り有効期限が記載されたページを開く。それをもなさんがまじまじと見つめつつ、その様子をカメラがしっかりと捉えていた。


「…………」


「あはは。高校生でも18歳で成人なんで応募しちゃいました」


 さっきまで会話をリードしてくれていたもなさんが無言で生徒手帳を見つめ続けるので思わずこちらから沈黙を破った。

 

「そ、そうなんだね。あたしも18の時からこの業界にいるんだけど高校は卒業してたからビックリしちゃって。ねえ、本当にこんなおばさんが初体験でいいの? 高校生ならこれから出会いもあるでしょ?」


「もなさんはおばさんなんかじゃないです! そりゃ年の差は埋まらないかもしれないけど綺麗だし優しいし、その……エッチの時もすごく激しくて元気っていうか……えっと…………ん゛っ!?」


 自虐するもなさんを少しでも励ますために言葉を捻り出そうとしても、伝えたい想いがうまく言語化できない。

 ここで言葉に詰まったらまるでウソをついているみたいな雰囲気になってしまう。そんな焦りがますます緊張を生む。


 ぱさぱさに乾ききった口の中に突如として生温い感触が押し入ってきた。

 もなさんの顔が近い。ゼロ距離で見ても彼女の肌は40歳近くとは思えないくらいキメ細かく透き通っている。


 こういう時、本当なら目をつむるべきなんだろうけど間近で見るもなさんの美しさを一瞬たりとも見逃したくない。


 乾いた口の中をもなさんの舌が這えずり回る。その動きに合わせるように僕も舌を動かしてみるも、彼女の滑らかな動きに翻弄されてしまう。


「ぷはぁ……れおくんのファーストキス、奪っちゃった?」


 小さく頷くと、もなさんは僕をギュッと抱きしめた。

 胸のあたりに柔らかいだけでなく突起物が当たる感触がある。ブラウスのボタンではないと直感した。


もなさんは僕の右手を取るとそのまま自らの胸に導いた。

導かれただけでその後にどうするかは何も指示されていない。だけど指は勝手に動き出す。

指の間からこぼれ落ちそうなくらいのおっぱいを僕は無心で揉みしだいた。

初めてのおっぱいの感触は、ブラウスの下に何も身に付けていないことを理解させるには十分すぎる弾力だ。


「おっぱい気持ち良い?」


 言葉が出ない。ただもなさんの問いかけに頷き、おっぱいを揉むだけの存在になっている。

 もうこれで満足かもしれない。それくらいの幸福感が右手から全身に広がっていくのを感じた。


「ねえ、れおくん。もしかしてお母さん」


 リビングの向かい側には和室があり、そこに母さんの仏壇を置いている。

 戸は閉めたつもりだったけど、もしかしたらスタッフさんの誰かが開けたのかもしれない。


「はい。小さい頃に」


 僕が早くに母親を亡くし、もなさんに母性に似た感情を抱いていることを知った深澤さんの演出。

 優しい顔をしてやはりプロ。使えるものは何でも使う。きっと僕にもなさんをママと呼ばせたいんだろう。


だけど深澤さんからは何も指示を受けていない。

 もなさんに身を任せて想いと欲望をぶつけろとだけ言われている。


 僕はもなさんと恋人のようなエッチがしたい。思惑通りに動けなくてすみませんと心の中で謝罪をして、自分が思い描いた初体験をもなさんと実現すると心に決めた。


「れおくんのママになってもいいかな?」


「え?」


 しかし、もなさんの口からは僕の決意を揺るがす言葉が飛び出した。


「ママとエッチなこと、しよ?」


 ブラウスを脱ぎ捨てると大きなメロンパンみたいな形の生乳が眼前に現れた。

 いろいろな男優さんが吸って、揉んで、時にはイチモツを挟ませたあのおっぱいがすぐ手の届くところに存在している。


 小亀様の七咲に対する想いや欲望を素直にぶつけてください。

 

 深澤さんの言葉が脳内で再生されたと同時に、自然ともなさんの胸に飛び込んでいた。


「……ままぁ」


 恋人ではなく母親。

 これが、本当に僕がもなさんとしたかったエッチ……。


 両手でおっぱいを掴み、谷間に顔をうずめて左右に動かす。

 今まで体験したことのない感触が手と頬に広がり、甘い香りが股間への血流を増加させる。


「甘えん坊なれおくん。まずは一緒にシャワー浴びようか?」


「うん」


 自分でも信じられないくらい甘ったるい声が出た。

 まるで幼児退行したかのような自分を嫌悪する気持ちと、もなさんの子供になれたような幸福感がぐちゃぐちゃに混ざり合う。


「ママぁ……ママぁ」


「れおくん、そんなにママのおっぱい好きなの?」


「しゅき~。だいちゅき~」


 脳細胞がどんどん破壊されていくような感覚。

 今まで積み上げてきた努力が全て消え去ってしまうような背徳感が理性を塗りつぶしていく。


「れおくんも脱ぎ脱ぎしましょうね~」


 もなさんはスラックスのベルトを外し、ゆっくりと下ろしてくれた。

 恥ずかしいくらいに膨張した分身はパンツの隙間からひょろっと顔を出している。


「甘えん坊さんなのにこっちは大人なんだぁ」


 毎日もなさんを想いながら使っていた我が分身を褒められ、照れくさい気持ちになる。

 ある意味で真の対面を果たす瞬間がついにやってきたのだ。

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