ノーゲーム・ノースローライフ⑥
レーズン村の集落を村役場に務めているサクタくんの案内を受け、巡ることとなる。ただ行く先々の住宅前や運営店で、移住民である私もといベーちゃんに対して一歩引いた村人の方もいた。けれどそこは流石役員さんというか、サクタくんが同行しているというだけですぐにベーちゃんが後継者の子だと判断しやすいらしく、村人の方々が段々とフレンドリーになっていく。
おかげで偶然すれ違った人たちとの会話も円滑に出来て、日用店にてじゃがいもの種子とジョウロを頂き、更にはかなり古いものではあるけど発掘用のツルハシも歓迎にと譲り受ける。他にも飲食店に交番に図書館などの施設の位置関係を優しく教えてくれて、豚舎や鶏舎を敷地内に有し飼育している家主に許可をもらい、なんと畜産見学まで執り行ってくれた。
きっと村長さんは、サクタくんがベーちゃんに同行することによって、住民と溶け込みやすくなると踏んで案内を頼んだのかもしれない。だって彼は、少し言葉足らずで抜けてる一面はこそあるけど、とても真面目な好青年で、自然と他人を惹きつける魅力のような何かがあるみたいだもんね。
実際サクタくんに声を掛けた後に、その人がベーちゃんを気にする素振りを見せるとすかさず、〔例の後継者さんです〕、〔ベーちゃんさんと言います〕、〔役所職員として案内中なんです〕など、初対面のお互いが話しやすい環境を仲介しながら自然に作り出してくれている。もう本当にありがとうだよ。
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狐っ子 〈サクタくんイケメンだ〉
縦辺 〈そつなくこなせるタイプ〉
北の海 〈お婿さん候補かな?〉
縦辺 〈サクタ現実に居たら倍率高そう。役所務めだから公務員ってことだと思うし、ベーちゃんと同年代なら若いし、人にも好かれるから非の打ち所がない……羨ましい〉
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『うーん……この辺で一休みかな? 水分補給水分補給……おっ、やっぱりサクタくんの印象がかなり良いねー……お婿さん候補? あっそうだこのゲームって恋人が作れるんですよね。はい、【牧畜自給ヒストリー】の配信ガイドラインをチェックするときに少しだけ見たんですよ。でもあらすじの世界観だけで、キャラクターとか、どういうギミックがあるのかは敢えて見てないんで……みんな配慮して貰えると私は大変助かります。それで確かあらすじに友達に恋人ってあるよね?」
一旦コントローラーを置いて、熱気を紛らわすためのお茶を飲み喉を潤しつつ、みんなのコメント欄を眺める。まだ序盤ということもあってか、今後の期待を込めたモノが散見される。かといって過度なネタバレをする人もいないし、荒らしもない。
あくまであらすじと世界観で知り得る情報のみと概要欄に記した事項を、みんな守ってくれている。これはとてもありがたい。
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縦辺 〈把握しました〉
北の海 〈ありますね〉
みたらし団欒 〈ベーちゃんも結婚か……〉
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「ありがとうございます、だよね。そっか恋人ねー……いやいや結婚はちょっと早いですよ、あくまでゲームの話ですからね? んー私にはまだかなー……あーでも、確かにサクタくんが現実に居たら気になるって女の子はいると思いますよ。なんたって他人に優しいですからね、それでいてちょっと不器用な言い回しがギャップがあって、好かれる要素しかないですもんねっ』
ゲーム画面はベーちゃんとサクタくんが集落から離れ浜辺の方へと向かおうとするところで止めている。ちなみにセーナは村役場での用事を前倒しで終わらせてから合流するらしい。その合流場所は海、つまり浜辺に行くと恐らくまた逢えるはずだ。
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フラ太郎 〈ベーちゃんベタ褒めだね〉
みたらし団欒 〈いえそういう意図では……ちょっとありましたっ、すみませんっ〉
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『はい、人の良いところは積極的に喋ろうと考えているので……ふふっもうやっぱり、現実での北ノ内 べいか……私は、結婚なんてもう程遠いですよ。最近はPCの前にしか居ませんし、連絡を取り合うのもこのバーチャル配信をやっていることを知る子だけなので、かなり限られてますしね。色々と厳しい世の中だね……さて気を取り直して、そろそろ再開しましょうか、みんな海ですよ海っ』
ペットボトルを置いて、私は再びコントローラーを握る。〔こっちに行けば浜辺があるんです〕というサクタくんに頷く。つられて北ノ内 べいかも頭を少し下げている。
暗転してすぐ、ベーちゃんとサクタくんは砂浜へと到着する。近辺には桟橋沿いに船着場と海の家のような木造建てに準備中と看板があるが、どれも入れそうにない。浜辺にはいくつか貝殻と、流木の小枝が転がっている。
目当ての海面は不規則に少し波打つ様子がとてもリアルで、点々とした煌びやかな陽光の乱反射がとても綺麗。ここに来て良かったと思えるドラマみたいなシーンだ。
『良いですね、この海。ゆらゆらキラキラして、とても落ち着きます。んっ、〔足場があんまりない海なんですけどね……〕。いえいえ、素敵な場所です……よ?」
そんな二人の後ろからポニーテールの女の子がやってくる。用事は済んだのかな?
「あっセーナだ。〔遅くなったわね〕。〔別にいいよ、僕はベーちゃんさんの案内が優先だからね〕。〔……ふーん〕。〔な、なんだよ。その含みのある感じは?〕〔別に。またこの前の発注ミスみたいに動転したりしなかった?〕〔する訳ないし、あのときも少し戸惑っただけだろ〕。なんか……この二人は結構親しそうだよね。ベーちゃんと話す時よりも口調がラフというか、ちょっと悪態をついても許されるとお互いが分かってやってる感じがさ……』
なんだかその光景を傍観していると、ちょっとだけ寂しい気分になる。それは私だけ置いて行かれているような、よそ者なんだっていう切なさが不意に降りかかる。
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