ノーゲーム・ノースローライフ⑤

 ベーちゃんは案内してくれたセーナと共に、季節ごとにさまざまなイベントと催すらしい広場の敷地内にて建設されている村役場に到着。しかし待っていたはずの村長はおろか、役員さんも誰もいなくて二人は戸惑う。


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フラ太郎 〈誰もいないね〉

みたらし団欒 〈そんちょー!〉

フラ太郎 〈深夜とかでもないし妙だね〉

縦辺 〈かわいい二人組が参られたぞー〉


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『うん? 〔おかしいな、最低でも一人は必ず居るはずなんだけどな〕。だよね変だよねこれ……村長さんっ約束通り来ましたよー。セーナも一緒なんですよー……』


 私がそう実況したのとほぼ同時、クラッカーの破裂音が村役場内に響き渡り、途端に暗転。〔えっ? なになに!?〕と言い警戒しているセーナの台詞読みを失念するくらい私も動揺した最中、すぐに明かりを取り戻す。


 するとさきほどまで誰もいなかったはずの役員さんたちと思わしき人たちが、ベーちゃんとセーナを取り囲むようにして集まり、最後に拍手をしながら現れた村長がベーちゃんと再び対面すると両手を広げ、満面の笑みの立ち絵が表示され告げる。


『……あっ、〔ベーちゃんようこそ! レーズン村役場一同はあなたを歓迎します〕。ありがとうございます……えっ? もしかしてこれサプライズ? そっかびっくりしたよ村長さん、役員さんもっ』


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フラ太郎 〈十人くらいに囲まれてる〉

みたらし団欒 〈ええ!?〉

北の海 〈どこから湧いたんだろう?〉

狐っ子 〈村長の笑顔が素敵すぎる!〉


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 すかさず私はコメント欄を流し見する。やはり視ているみんなもびっくり仰天の登場演出だったみたいだ。どこから現れたのか、村長の屈託のないお顔が素敵というコメントには、タイミング的に返答は出来なかったけどとても共感してしまう。


 それからローディングを挟み、ベーちゃんは村長さんとお話をして、イベント日がいつなのかは部屋にあるカレンダーに目印を見て確認して欲しいこと。あと村の自然を著しく破壊しない程度なら、道端に落ちていたり洞窟の奥にある物資を採取、発掘を行い、その調達物資を再利用、出荷しても良いらしい。道具を器具屋で購入すると効率的なようだ。他には釣りがしたいなら海に行くといいかもしれないということ。これは要するにチュートリアルだね。


 そして最後に重要な、野菜の種子を販売しているお店の位置まで懇切丁寧に全て教えてくれた。補足として、牧場で野菜を育て出荷することや物資を売ると利益を得られる。その資金で畜舎を復活させたり、上質なクワを製作したり、家のリフォーム、土地拡大などさまざまな恩恵が受けられるらしい。

 とりあえずは、野菜を育ててお金を手にする。時間があれば物資を採取したり、釣りをして食料を手にして、体力を回復させる自給自足の生活がおすすめだということだ。


 やること、やりたいことは山積み。そんな金言を賜ったあと、なんと村長さんからゲーム内の通貨である500Bを移住支援として譲られる。この資金をどのように活用するのかは私、北ノ内 べいか、ベーちゃん次第だ。


『〔さあベーちゃん。村長はこのレーズン村であなたが幸せな人生を送れると心から願っているよ、何か分からないことがあったらいつでもこの村役場に来て欲しい。村長不在のときでも、役員は必ず居る万全な体制をとってあるから遠慮は不要だよ〕。はいっ、分かりましたっ!」


 個性的だねという印象が強かった村長さんの、頼り甲斐ある一面を見た気がした。


「〔……あとは、もうセーナと出逢っているんだね〕。そうなんですよ、セーナに声を掛けて貰いまして。〔確かベーちゃんはセーナと同年代だったな〕。みたいですね。〔実はこの村役場勤めのサクタという少年が居てな……〕。むっ、サクタくん? 〔そのサクタはセーナと同年代、つまりはベーちゃんとも同様というわけだ〕。あっ、サクタくんって男の子も私……ベーちゃんと歳の近い子なんだね。〔彼にベーちゃんの案内を頼んだのだが……一体どこへ行ってしまったのやら……〕。ほおほお……これは恐らくだけど、村長さんは私とそのサクタくんが仲を深められる機会を作ろうとしたってことかな? ほら、同年代少ないってセーナが言ってたしね……あれ? そういえばいつの間にかセーナもいない?』


 思い返せば村役場一同によるサプライズ演出の後、村長さんから教授されている間にはもうセーナは隣に居なかった。憶えるべき項目が多くて、私の頭に叩き込むのに精一杯でうっかりしていた。ごめんね。


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縦辺 〈セーナ居なくなってたな〉

みたらし団欒 〈村長と話す前。仔馬が舌を出しているローディングになったあとから、もうどこかへ行ってたね〉

フラ太郎 〈サクタくんってもう出てるのかな?〉


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『おや? 〔セーナ、なんでお前が村役場に来てんだよ?〕〔別に……サクタに用事があったわけじゃない、新しい友達の案内をしていただけよ〕。セーナ……サクタくん?』


 ベーちゃんが村長さんから離れ、村役場の扉を開こうとしたとき、セーナとサクタくんらしい二人の会話が聴こえる。どうやらこちらは向かって来ているようで、ベーちゃんはまた村長さんが立つ位置まで戻る。


 しばらくして、施設外から二人の少年少女が帰ってくる。一人は案の定セーナともう一人、癖毛が特徴的な黒髪にワイシャツとパンツ姿の一見して実直そうで童顔の男の子……きっとこの子がサクタくんだ。


『〔……誰?〕〔この子はベーちゃん。村長がずっと探してた後継者の子〕〔へぇ〕。ありゃ? あんまり興味ない感じ……おおっ村長さん、そんなに急いでどうしたの……〔へえ……じゃないぞサクタっ、ベーちゃんの案内を任せると伝えたはずだぞっ〕〔あ、完全に忘れてたわ〕。んー、意外とうっかりさんかなサクタくん?』


 憤慨する村長さんに、呆れ果てるセーナ。

 そしてミスを取り返そうとしてかサクタくんはベーちゃんの元へと駆け寄り、〔ごめん、セーナじゃなくて僕が君を案内することになってたのに〕と、頭を下げる。ベーちゃんはそんなことないと言いたげに、雫が三つの汗を吹き出すアイコンが現れる。

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