ノーゲーム・ノースローライフ
待機画面の一枚絵は、薄桃色でモコモコのフード付きパジャマを
初配信ではバーチャルの姿をシークレット状態だったから使えなかったけど、これからの通常配信用として描いたイラストは、みんなが見守りたくなる北ノ内 べいかの日常をテーマに表現してみた。
バーチャルキャラクターの作成や、コマ数が少なめではあったけど数十秒ほどのアニメーション制作の後に取り掛かったから、少し当時の私の心境が混ざっているかもしれない。イラストをPCとペンタブレットを使って描いているときに、眠たくてウトウトしていなかったといえば嘘になる。
プレイする予定のゲームのセッティングも完了、クーラーも切って、お茶のペットボトルも二本用意、時間もそろそろかな……マイクもカメラの位置も異常なし、起動——
『——……っはい、みんな聴こえますでしょうか。北ノ内 べいか、ベーちゃんです』
内装が未だ地味なままの一室に一人……いや一匹の方がいいのかな? とにかくキタキツネを模したバーチャルキャラクターの上半身がモニターの正面に映る。
可愛らしい丸顔を包むホワイトブロンド、三角型の
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フラ太郎 〈聴こえます〉
みたらし団欒 〈はいっ〉
縦辺 〈はーい、ベーちゃん〉
北の海 〈初見です〉
フラ太郎 〈今日は確かゲームの配信だったかな?〉
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『大丈夫そうですね……あっ、初見さんいらっしゃい、まだ引っ越して間もないような部屋ですけどゆっくりしていってください。はい、前回の初配信やSNSでの予告通りゲーム配信です。何のゲームをプレイするのかはこのあと発表します、楽しみにしてねっ』
そう告げた後少しだけミュートにして、別モニターでゲームのオープニング画面がちゃんと開いているかを確認する。配信との接続は異常無さそうだし、今まさにバージョンをアップデートしなさいとか来ない限りは問題なさそうだ。音量調節はゲームのタイトルを発表してから加減しようと思う。
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みたらし団欒 〈はーい〉
縦辺 〈ゲームは前回話していたクリケットと予想しますっ〉
北の海 〈わくわく〉
狐っ子 〈配信間に合ったかな?〉
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『ふふっ。最初の配信でもそう言ってくれてましたね、さてさてどうでしょうか? はいお疲れ様です、ゲームプレイはこれからですよー、タイトルの披露もまだ……です』
コメントへの返答をしていると、気付けばこめかみから左頬を伝い首筋に汗が
「えっちょっと待って……ハンドタオルとかあったかな……」
北ノ内 べいかに切り替える。
『あのすみません、ちょっと離席します。すぐに戻って来ます——』
私はペットボトル一本を片手に、PCを設置している机椅子から離れると喉を潤し、汗とお茶の水を一緒に拭いながらタオルを探す。例年の北海道の気温ならそこまで暑くなるとは考え難いんだけど、まことしやかに囁かれている温暖化とは末恐ろしい。
特にバーチャルを含め配信者は、なるべくアンビエントな音がマイクに入らないように窓を閉め切ったり、エアコンを付けなかったりとするため、このような気象の変化はとても困る。
『——……はいっ、戻りました。いやぁ私の部屋の中が思ったよりも暑くてですね、お化粧をしていなくてよかったなーってくらいでしたよ。皆さんのお部屋……は、冷房を効かせたりとか水分補給とか大丈夫でしょうかね? 最北端の地ですらこれですからね、本土だともっと酷暑なんじゃないかな?』
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みたらし団欒 〈どうやら今年の最高気温らしいです。部屋の冷房ガンガンに効いてます、ちなみにですが関東民です〉
狐っ子 〈汗でお化粧ってかなり落ちちゃうんですよねー〉
狐っ子 〈今日は快適な実家にひきこもることにしましたー〉
縦辺 〈電気代節約生活を今し方解除したところですよー(泣)〉
みたらし団欒 〈【バーチャルベース】や他の動画投稿サイトの配信者さんは音が入らないように暑いのを我慢しているらしいですね。ベーちゃんさんもそうなのかな? 頑張ってっ!〉
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『……ああやっぱり最高気温ですか、おかしいですもんね今日。そうですねー夏頃のメイクって顔汗とかで大変ですよねー。私はあんまりガッツリはしない方だと思うのですが苦労しますね。エアコンは電気代高いみたいし悩みどころですね……でもお金も大事ですが、みんなの命あってこそのお金ですから、死にそうになるまで耐える必要はないと私は思いますよ……とは言いつつ、配信のために私はクーラーを切ってるんですけどね……あはは、人のこと言えませんね』
あっ、と私は気付く。予期せぬ熱気のせいで脱線したけど、まだゲームのタイトルも明かしていないんだった。今日はお話をメインの配信じゃないから、そろそろ発表しないと。
『では私も、皆さんも準備は大丈夫でしょうかね? ちなみに今日は二時間くらいを予定していますが、熱中症にならないように少し早めに終わってしまうかもしれません……っと、それではそろそろゲームタイトルを発表したいと思いますっ!』
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フラ太郎 〈把握です〉
みたらし団欒 〈体調には気を付けて〉
狐っ子 〈ベーちゃんもおめかしするんだね。お暑い中、頑張って下さいっ〉
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みんなのコメントによる声援に勇気を頂きながら、私は北ノ内 べいかをモニターの右下へと移動させ、プレイゲームを視聴しやすくする。そして画面の殺風景な部屋から、ゲーム出力画面へと切り替える。
『初ゲーム配信のタイトルは……【牧場自給ヒストリー】です。これは呼んで字の如く、自分の土地を手に入れた主人公が動物を育てたり、農作業をしたり、村民との仲を深めたりするゲームになりますっ』
木板を繋いだようなオープニングタイトル、その真下に賑やかそうな村民が集結し、主人公であるほのぼのとした金髪少女が野菜の入ったカゴを両手に微笑んでいる。
そして偶然にも画面の右下にいる北ノ内 べいかも、朗らかな村民たちの一人のように私には見えた。率直に言うと、とっても愛らしい場面になっている。
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