5th Story 休憩を兼ねた修学旅行(九泊十日)

修学旅行に出発した僕たちはあろうことかホームタウンの関東からずっと南の九州を回るようなツアーになっていた。


一日目は福岡でパリーグの球団である福岡ソフトバンクホークスを見に行く。

二日目は大分に行って温泉と火山について調べる。

三日目は宮崎でマンゴーと、コカコーラが自販機でも展開している事で有名なデーリィの日本初、乳性炭酸飲料「スコール」を購入したり、それらの話を聞いたりするらしい。

四日目はそのまま鹿児島の大隅半島(≒東側)を色々回るそうでいわゆる観光地巡りだ。常に活動している火山である桜島にも行く。

五日目は対岸の薩摩半島(≒西側)を回る。

ちなみに姉さんは焼酎を飲むらしい。

確かにさつじょうちゅう有名だけれども。

六日目は熊本県。新日本ちっ肥料による四大公害病が一つみなまたびょうについて水俣病資料館で話を聞くらしい。

突然修学旅行味が出てきたが、まあそうでもしないと旅行ではなく旅行である。

七日目、あまくさにいってさきてんしゅどうに行ったりかわうらのグーテンベルク印刷機を見たりとキリシタン館で天草・しまばらの乱について調べる。

八日目、天草からフェリーで長崎に渡りうんぜんに登るらしい。

九日目、最終日は忘れずに佐賀に行って、今更ゾンビランドサガの聖地巡礼だった。

これ修学旅行よね?

とそんな計画を飛行機の搭乗する前に聞いた。

「姉さん正気? 結構エグい計画だぞ」

「良いじゃない。ゆきと一緒に旅行に行けるんだもん。少しぐらい自由行動多めでも良いわ。むしろその方が良いわ。そして私が担当する班なんだけど、りんちゃんとゆきだけよ。残りの二〇一人は先生たちが付くことはありません」

「幸矢と居られるのは良いのだけど、二〇一人は自衛できるのかしら?」

「大丈夫よ。例のタリスマンがまだありますし、腕章も全員に付けていますから」


@PSI-a class


「点呼を始めます」

……

ざき みつる しよう、それにはまさと れんが欠席か」

(戸崎と馬場は……確か魔法科の陽愛先生が例の事件の主犯格とか言ってたな。濱里は……最近気分が悪いって言ってたな)

「それでは授業に移りたいと思います」

……そして、一組はいつもの一限が始まった。


@Karen's view


(戸崎くんと馬場くんたちがみんなを襲おうとしていることを早く陽愛さんに伝えなきゃ。

お願い! 助走足りて!)

「テレポートα」

私の身体が一瞬だけ浮遊感に包まれ、直後空港にいた。

普通のテレポーテーションは複数人を運ぶことは出来ないから、彼らより早く着いたはず。


居た。まだ間に合う。

「陽愛さん!!!」


@Yukiya's view

(陽愛さん!!!)

え。え!? え!!??

声がする方を三人で見ると一般異能科の学園生が居た。

テレポーテーションでも使ったのだろうか?

そう思えるぐらいに早かった。

「あなたは?」

「濱里 歌恋。一般異能科A組所属の異能者よ」

「どのようなご用件で?」

「飛行機で逃げれば良い訳じゃないわ。彼らは確実にあなたたちを追っているわ」

内容が内容なので姉さんが反応する。

「忠告ありがとう。ここだと人目もあるし、それにワープするには魔素が薄すぎるから森から転移するわ」

「私は忠告しに来たのではありません。私の異能、テレポートは普通のテレポーテーションと違って指定した面々を同じ所に転移できるの。そしてこの力をあなたたちのために使うわ」

信用はもちろん出来ない。なぜなら、テレポーテーションでは一般的に複数人を転移することは出来ない。

それこそ魔素が十二分にあるような状況でワープを発動したら長距離の複数人転移が出来るだろうが、魔素の量が少ないこの状況での異能者は魔術師と異なり能力のコストが〇なため節約するために頼っても良さそうではあった。

「……分かったわ。ゆき、あれを渡して」

この場合だとテレパシーによって読み取られるのを回避するためだろう。

「歌恋さん。これを持っていてください。テレパシーで勝手に読み取られるのを防ぐお守りです」

「ありがとう。それでどこに飛ばしたら良いですか?」

【福岡県のざいてんまんぐうのあたりにお願いできる?】

「今のは?」

【通信魔術よ。念話とも言うわね。何を言いたいかを発言する意志と共に考えたら良いわ】

【簡単だよ】

【分かりました。太宰府天満宮に行く分には大丈夫です】

【了解。五分後に飛ばしてね。それまでに太宰府天満宮に一時的な人払いの結界を張るから】

【はい!五分の感覚がないので、良いときに教えてください】

とりあえず、どうにかなりそうだった。

協力的な歌恋に少しだけ疑いを持った夏鈴がどうやら魔眼で調べたようで、色々と教えてくれた。

彼女は白ということ

害意が無いこと

テレポートがすこし特殊な能力であったこと

それが原因でいじめがあったこと

そして、これ以上に一番驚いたことがあった。

彼女は自分を異能者と思い込んでいる魔法使いだった。

異能者や魔術師とも異なる魔法使いとは何らかの理由で人間をやめてしまった人のことを指す。

[しかも、彼女は珍しいわね。両親を亡くして、自分も意識不明になるような大事故で、魔法使いになって、精霊術士スピリットマスター死霊術士ネクロマンサー、それに魔導師マジシャンの力を持ってるわ。魔法使いなら魔術師とは違って魔力は使わないわ。でも、代わりにしんりきを使うの。神力は日本だったら「よろずの神が住んでいる日本」とも言われるぐらいだし大丈夫よ。それにしても……]

[それにしても?]

[彼女からは異常なくらいの神力を感じる代わりに生気エーテルを感じないわ]

[つまり……彼女はの生きた人間ではなくひとはしらであるとでも?]

夏鈴が言っていることを要約した場合は神であるのが妥当である。

[多分そうね。神ならこの神力も妥当だわ]

[夏鈴ちゃんとゆきが言っていることが本当なら、魔法科に転科させた方が良いかもしれないわね]

[それで姉さん。結界は?]

[もう終わったわよ]

【みんなこっちに来てくれるかしら。信頼できる学園生が向こうに連れて行ってくれるみたい】

「歌恋さん。付いてきてください」

[ゆき、念のため結界で全員にテレパシー妨害しておいて。行き先は北海道と偽れば良いわ]

[了解。姉さん]

生徒全員に通信魔術を使って招集を掛けた後、僕に妨害を命じた。

そして、ひとの少ない路地裏のような所に入って歌恋に「助走なしでテレポートを試してみてください」と言った。

「助走なしで行けるんですか?」

「多分行けるよ」

歌恋は疑い半分であったが、全員を走らせるわけには行かないので、渋々と言った感じで能力を行使した。

結果はもく通り成功だった。

全員の点呼を済ませ、先に点呼が終わった僕と夏鈴が先ほどの能力について少しだけ説明した。

「歌恋は事故で両親を亡くして、その時に自分も死のはざ間をさまよって、神様に会ったのよね?」

この質問をした途端、歌恋の顔に驚きの色が表れた。

「なんで私のこと知って……」

「魔法使い。それは亜人族の魔術師とも、人族の異能者とも違う第三の能力だ」

「魔法使いになる方法は大きく二つ。一つがネットでも話題になったことのある『童貞や処女を三十まで維持すると魔法使いになる』というもの。そしてもう一つが『死のはざ間をさまよって神様に助けられる』ということなの」

「それじゃ……私は異能者じゃなくて、魔法使い?」

「そうなるわね。そして」「君は死のはざ間をさまよったあげく、そのまま

「え? だって私は、今ここに……」

「話はまだ終わってないわ。ここからが重要なのよ。あなたは一度死んで、神様になったの……いいえ、神様によって神様にされたの」

歌恋はしばらく考えたあと、納得したようにさっき以上の笑顔を見せた。

恐らくは歌恋の中で今までに起きたことの辻褄が合ったのだろう。

「歌恋は魔法使いなんだから、アタイのクラスに移らない?」

「そうですね……この修学旅行が終わるまでに決めます。妨害したと知られたらいずれ私は殺されるので、移るべきとは思っていましたが」

彼女も悩むことが多いのだろう。

……とりあえず


今から修学旅行を楽しむぞ!!!


即興で組んだ予定ではあったが、ホームゲームの開催日であったため、観戦することが出来た。

特に問題もなく一日目は無事に終わり、特に何も起こらず平常運転していた。

とはいえいっときの平和というのは長くは続かないものである。

「魔法科の連中だな?」

二日目の移動を開始して5分程度歩いたときだ。いかにも怪しい男どもが道をふさいでいた。

結界を張っていないにもかかわらず、近くには一般人が一切いないと言うことから恐らくは誘導されていたのだろう。

「質問に質問を返すようですが、もしそうであったとしてあなた方異能者が魔術師相手に勝てると思っていますか?」

「勝てるだろうよ。サイコシールドがあるからな」

【ゆき、夏鈴ちゃん。アタイは戦うべきと思うけど……】

【良いと思うわ。私も久々に派手に吹き飛ばしたいし】

【二人ともほどほどにね。皆は僕の合図で散開して】

「アタイはひよっこ魔術師を教え導く教師です」

「私は教師の弟の婚約者です。遠慮無く」

「燃えろゴミ共!!」「凍えろクズ共!!」

「「融合略式Shield Break」」

「融合略式Shield Break」サイコシールドも防壁シールドも基本的には石と同じような性質を持っている。熱して冷やすことで脆くなると言う性質を使ったものだ。

頭を中心とした数名は何事もなく立っていたが、他は一気に倒れ込んだ。

「シールドの強化ありがとうと言うべきかな?」

「いいえ。あなた方数名には融合略式の裏で幻覚を見せました」

「熱波を感じたでしょ? 冷気を感じたでしょ? でもそれらはすべて幻」

これは本当。頭とその側近数名には鋼のように逆の性質のサイコシールドが掛っているだろうから、強化させることが無いように幻を見せていた。

「あなた方の強化シールドは」「僕が解呪ディスペルで外しました」

さっきの時点でコンビネーションをつなげるべく僕が独断で解呪をしていたのだが、しっかりと繋がってくれたので結果オーライである。

「なんだと!? 早くシールドを……」

「遅い!」

夏鈴はいつの間にか帯刀しており、「遅い!」の一瞬で刀から魔力波を飛ばした。

「抜刀術も身につけてたのか。凄いな」

「幸矢が守られる立場になっても守り通す為よ」

カッコイイが、少しだけ恥ずかしくなった。

夏鈴に守られるのであれば、それはそれで良いのかもしれない。

あっという間に敵対勢力を無力化するのを見て、T社の電気ケトルのCMを思い出したのは秘密である。

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ベガの光 秋雪 こおり @Kori-Syusetu

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