4th Story 前世の記憶と第一波

翌日


@Yukiya's Dream


……僕は夢を見ているのだろうか?

自分の意志ではどうにもならない記憶のような何かを見ている。


「ありがとう。美海みなみお姉ちゃん」

美海? 誰だ?

「良いのよ、たくくん。けがしていたもの」

拓也って僕か?

……あれ? 耳の位置が少し違う。

「でもね、これぐらいが居なくてもなんとかなる怪我なんだから、を待たないでね」

「嫌だ。美海お姉ちゃんじゃ無いと嫌だ!」

……前世の僕何してんの!?

夢でも前世の記憶でも恥ずか死するって。

「分かったわ。これはアタイからの約束」

彼女はキスしてきた。獣人の掟がこの当時の僕らにも適用されるなら、恐らく彼女は僕と婚約していたのだろう。

そして、彼女の姿が見えなくなったところで、空を見上げ、呟いた。

「ごめんね。美海お姉ちゃん。僕ももうすぐから……もうすぐそっちに逝くよ、すみ


@Karin's Dream


……この感覚はあの夢かしら?

そうだわ。この感覚なら、また呪い殺される夢だわ。


「しっかりしてよ! 花純!」

「拓也……ごめんね。私は……」

夢でも苦しいわね。この瞬間は。

何かを言いたくても声が出ない感じとか、死ぬ瞬間の謎の浮遊感と安心感とか。

「かs――」


「うわぁ!?」

何!? この夢が壊れるような叫び声は!?

しっかりと耳から入ったから現実からだわ!

「幸矢!? 何事?」


@Yukiya's View


「うわぁ!?」

余りに怖い内容だったためか、叫び声も出ながら飛び起きた。

「幸矢!? 何事?」

隣で寝ていた夏鈴も叫び声にすぐさま反応する。

「前世の記憶と思ったのがただの悪夢だった。『もうすぐそっちに逝くよ、花純』とか言ってたし」

「……多分少し違うけど、私も似たような夢を見たわね。少し前までよく見ていたからさすがにもう慣れたけど。つまるところ幸矢は拓也だよね」

「って事は、花純ってもしかして夏鈴か?」

「多分私よ。前世の私。多分前世では夫婦そろって呪い殺されたのよね。しかもたちの悪いことに呪い死ぬときを見るのよね……」

確かに呪いで死ぬ瞬間を見たからな。

「まさに死ぬ瞬間だったよ。なんてキツいことを――」

言いかけた瞬間に廊下から走る音が聞こえて、「ゆき! 大丈夫?」と言う声と共に扉が勢いよく開かれる

「姉さん!?」

さん。心配しなくても大丈夫だわ。少し悪い夢……というか前世の記憶を思い出したみたい」


さすがに混乱している僕は会話に加わるよりも先に頭の中を整理しろと言われたので、夏鈴に代わりに説明してもらった。

夏鈴が説明し終わるぐらいには僕は落ち着いて、冷静になったがまた面倒なことが起きた。


「思い出してくれたのね。ゆき」と姉さんが言った。美海お姉ちゃん=陽愛姉さんだったわけだ。

「アタイは悲しかったのよ。だからね、アタイはあの後頑張って転生する方法を調べたの。故人、つまり拓也が生まれ変わる時代にアタイも生まれ変わるように。そして作ったの。転生魔術を。アタイは記憶と能力を引き継ぐから天才神童として扱われるけど、獣人なら成人儀礼を早く受けれるからね。そしてね、アタイは実姉じゃないの。あまりに賢かったから気味悪がられて本当の親には捨てられたわ。成長する魔術も開発してなければ、見つけられるような所に行けなくて詰んでいたわ。

アタイのは『きりさき 陽愛』なの。生まれた里を追い出されて、新婚旅行中のぶち夫妻に見つけられなければ、多分転生してまもなく死んでたと思うわ」

姉の口から飛び出した衝撃のフレーズは翌日の授業に居眠りという形で影響した。


翌週。

魔術師が学園である種の人権を獲得した中、異能者たちは気が気でなかった。

なぜなら唯一の非現実的な能力と思われた異能は他に魔術がある事が学園中に広がったために学園内の異能者の一部は力を失いつつあった。

そしてスクールカースト上位を維持したい一部の異能者は魔女狩りのように魔術師を排除する計画を立て始めた。


そんなことはみじんも知らず今日も平和な魔法科の一般生徒であったが、僕の魔力も使ってりんが作った護符タリスマン姉さんが魔法科全員に配布していた。

まぁ僕ら三人はタリスマンの防御ではなく、常時防護魔術を展開している。

これは姉さんの技術で魔術の魔力効率が飛躍的に上昇したためであるが、魔力制御の力が非常に高くないと失敗するため……というか僕ら以外は全然駄目なので僕らだけが魔術で他は代わりに同じ性能のタリスマンと言うことになった。

タリスマンにそこそこの魔力を込めたら一日中守ってくれるという優れものだ。

何でこんなものを配布しているのか? そもそも魔法科の生徒も陽愛姉さんの話を聞くまでは多分受け取らなかったかも知れない。

なぜなら、この時は事件が本当に起きるとは思っていなかったが、姉さんが未来視まがいの魔術を行使した結果、異能者たちが襲ってくることが分かった。

姉の未来視では明後日ぐらいには第一波の攻撃が始まり、このままでは所属する魔術師のおよそ三割が自衛できずに死ぬというものだったので、学園の魔術師約二百人全員に身を守れと言う意味を込めて配布していたのだった。

もちろん自衛のために魔術師同士で競い合うこともあった。

しっかりと対策しないと意味が無いからだ。

また、未来視で見えた襲撃を行う異能者を各クラスの担任に密告した。


そんなこんなであっという間に襲撃まであと十二時間を切った。

教室には結界が張ってあり、自衛の自信がないものはとどまるようにした。

まだ昼間だが生徒は魔術で眠らせてある。

夜中に襲撃されても大丈夫なようにだ。

陽愛姉さんや夏鈴が用事で外に出ることもあったが、基本的には彼女らの自衛能力に任せた。

夏鈴が編入して一週間、次の事件は丑三つ時に起きた。

草木も眠る丑三つ時とも言われる夜中の一番静かで、一番怖い時間帯。

夏鈴が召喚した人魂のような何かが突然移動したと思ったら外から「ぎゃー! お化けぇぇ!!!! 来ないで!!!」と女子の叫び声が聞こえた。

さらにその数秒後「た、助けてくれ! 死にたくない! 異能者がこんな所でd……ひっ!?」という感じの声が複数聞こえ、その声は小さくなることなくその場で消えた。

それを確認すると夏鈴が、「みんな気絶したわね」とだけ言って第一波の攻撃は幕を閉じた。

ただ、第一波はあくまでも偵察隊だったためにあまり影響にはならなかった。


夜が明け、陽愛が全員の疲労と眠気をとってから「魔法科もせっかく出来たことですし、遠足兼修学旅行にしますか」と言ったときの生徒の喜びようは半端ではなかった。

この学園は全寮制のため、保護者には確認をするだけで良かったのが功を奏し、すぐさま歓迎遠足を兼ねた修学旅行になった。

保護者に許可を取る必要のある生徒の確認して、僕や夏鈴を含めた許可の必要がない生徒は特に何の連絡も行わずそのまま出発した。

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