1st Story 事件の後の出会い

たかはし先生、にのみや先生。アレがなんだか分かりますか?」

謎の生物を見て、教師二人は困惑する。

異能では生物を誕生させたりや、従わせたりすることは一切出来ないのでこの状況を見ている教師は混乱して、正常な判断をしかねている。

「あの生物のことは分からない。だが、じんぞくか魔術で生み出された存在のいずれかだろう」

ともあれあの見た目では一般的に「バケモノ」とか「キマイラ」とか言われる存在だろう。

一般人ですら混乱して判断しかねる。そのような感じであった。

「……あの生物、こちらに来ていませんか?」

僕のその発言に二人はさらに慌てる。

「攻撃してきたら色々と大変だから、幸矢は俺に捕まれ」

高橋先生の提案に乗り、僕と先生で逃げる。

「二宮さん、足止めお願いします」

「了解よ」

謎の生物に追われる状況など一生に一度も起こらないと思っていた。

あぁ。あの想像がなんで現実のものになるかな。

逃げながらそう考える。

二宮先生の足止めは思ったより効果が無く、すぐ後ろに付けられる。

やばいと思った。異能者の可聴域は人間と一切変化はない。

僕はアレのせいで犬と同じ可聴域――個体によっても事なるがおおよそ40 Hzから 70 kHz――である。なので、このハイレゾスピーカーを積んだスマートフォンから30 kHzの音を出す。

大きな音で耳が痛い。先生には音を流していることを知られたが、大音量でも聞こえない音のような感じで思ってくれていた。

[きゃっ!]

「きゃっ?」

「どうした? 幸矢」

「悲鳴が聞こえた気がして……」

「そうか? ノイズしか聞こえなかったぞ?」

(ノイズ? もしかして獣人共通語?)

一瞬そう考えたもののあの生物もひるんだとしてもすぐさま獲物に逃げられまいと必死に追いかけてくる。

やがて室内の照明の暗い廊下に入り、目が慣れ始めた頃に向こうをモバイルライトで威嚇した――注:虐待・暴力になりますのでやらないでください――。やはり最初こそひるむが向こうも学習して、片目を閉じている。

「すまん、幸矢。俺はもう無理だ」

「分かりました。先生はひとりで逃げてください」

さらに少し行った頃に先生が限界を迎えた。

「本当にすまん。けがしたら金を出すから」

とだけ言ってしっかりと逃げてくれた。

そう言う問題じゃないでしょう。先生。


仕方が無いので、狼の姿に変え、走る。

しかし、狼の姿でもその生物を離すことが出来ない。

そして遂に僕は追いつかれた。どうせ攻撃されるのならと思い人の姿に戻る。そしてそれは、すぐさま僕の上に乗る……までは良かった。

見覚えのあるというか、先ほど自分が行った時の副作用と同じ強く、それでいて優しい光り方をしたと思ったら、その生物は女の子になっていた。

女の子は僕の唇を奪って、[やっと会えたね。久しぶり、【ぶち ゆき】くん]と獣人共通語で言った。


理由は分からないが彼女が誰なのかを覚えていない。まるで脳が再会したことを認めないかのように。

[あなたの里では幼少期に別の里の人間と会ってはいけないのでしたね。そして、里で成人すると外にも行けるし、名前も付けられるのよね? ゆき、いやWolf型五四〇三六号くん]

Wolf型五四〇三六号。僕の識別名。それは教師にも教えていない秘密の情報。

[なぜそれを?]

[あなたが教えたんじゃない]

[僕が……?]

(……まさか私のことを封印されて?)

彼女は少しだけ何かを考えて、「Unlock Memory」と言った瞬間、僕はなぜ今の今まで忘れていたのか分からないぐらい鮮明に過去のことを思い出した。

[忘れててごめん。夏鈴]

[別に良いわ。記憶を封印されていたんだもの]

彼女はしい りん。同い年で別の里出身の狐の獣人族だ。

僕が居た里とは異なり比較的規則が緩やかで亜人族である以上、個体識別名があるのだが最初から名前が与えられる人間社会に近い里で生まれた彼女と会ったのは幼少期の頃だった。

里の掟では、幼少期に別の里に住んでいる存在と会ってはいけないことになっていたが、好奇心盛んな子供に守らせるには結構キツい内容であった。

たまたま会って少し話をするぐらいなら、掟破りとも言われず注意される程度で済むのだが、僕のように「約束」までしてしまった場合などは掟破りとしてその部分の記憶を封印される。その封印は魔術であり、自分では解除出来無いどころか封印されていることを忘れるような非常に強力なものだ。

約束と言っても色々あるわけだが、とりわけやそれに類するものは厳しかった。

当たり前だろうがこの掟は会うこと自体を禁止しているわけだから、婚約という外部の人間と一生を共にする事を約束するなど掟破りも良いところである。

それでも僕は彼女と婚約したのだった。

彼女を見た瞬間に知りもしない様々な感情が流れ込んできたのだ。

もちろん向こうだって同じようで、彼女は僕のそばに来るや否や、さも当然というようにキスをした。


@Yukiya's reminiscence


「あたしのうんめいのひと!」

「うんめいのひとっているんだ!」


それは当時幼い子供であった僕らでも自覚することの出来る神が授けた奇跡だった。

「なまえなんていうの?」

「なまえ……ぼくにはまだない。さとのみんなは『ウルフがた五四〇三六ごう』っていってる」

「あたしはしーな かりん。『フォックスがた九〇四三二ごう』っていわれることもあるな」

「きめた! しょうらいはふたりでいようね!」

「やくそくだね。わかったわ」


この幼き日の記憶はその日のうちに族長に封印された。

彼女に関することを一切思い出せないように、強い思いによる自発的な封印解除を出来なくするために、一段と強力なものがかけられた。

そしてその封印そのものを里の皆は忘れて解除することなく人界へと送り出したのだった。

もしかしたら担当以外は覚えていないのかも知れない。担当が誰かは分からないが。


@Yukiya's real


(……今思い出すといろいろと恥ずかしいな)

[僕がWolf型五四〇三六号であるのを特定できたのもすごいけど、なんで名前まで知っているのさ?]

[話せば長くなるのだけど]

[要点だけで良いかな?]

[里の忍とに頼んだわ]

[大体分かった。けど、封印に関しては知らされなかったの?]

[記憶の封印に関する部分は一切触れなかったわね。……情報屋のお姉さんが封印されていることを遠回しにけれど]

[OK。この学園で一緒に暮らさない? ここの二人部屋は同棲も良いらしいしさ]

[そうするわ。異能者じゃ無くて魔術師だけど大丈夫かしら?]

[僕が大丈夫だから、良いでしょ。あからさまに魔術を使わなければ。小声とか人間にはノイズに聞こえる獣人共通語で行使するとかは全然良いから]

刻印ルーン魔術マジックなら楽ね。他には何かあるかしら?]

[密談には獣人共通語を使ってほしいかな。最後にお守り]

僕は彼女にテレパシーで心を読まれないようにするお守りを渡した。

[このお守りは何かしら?]

[これはテレパシーとかで心が読まれないようにするお守り。異能者だらけの学園で生きていくために必要なこと]

周りから見たら廊下で騎乗してエッチなことをしているようにも見える状況であるのだが、当人たちは気づいておらず、帰ってきた二宮先生の「Oh! 騎乗位!」で気づかされた。

その時夏鈴はさも当然と言うように平然としていたが、幸矢の顔は赤くなっていた。


…………


「二人は知り合いだったのか」

「ですが、僕は記憶を封印されていて、彼女が解除してくれるまで一切覚えていませんでした」

「そうか。ところで、二人部屋にするのか?」

「さすが先生。察しが良いですね。二人部屋と彼女の編入をお願いします」

「なるほど、封印の解除をしたということは彼女も魔術を使うんだな。何が出来る?」

「一通り履修済みよ。投射プロジェクション魔術マジック、刻印魔術、イビルアイ。どれも異能でごまかしがきくわ。あとは普通に詠唱魔術スペルキャストが有るわね」

「……了解だ。部屋はすぐに手配する。編入は明日以降になるが良いか?」

「私は良いわ」「クラスを同じにして頂けると僕としては助かります」

「それ込みで校長に直談判してくる。その方がペアも作りやすいだろう?」

こうしてとんとん拍子に話が決まっていった。

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