ベガの光
秋雪 こおり
第一部 激動の魔法科
Prologue 異能を伸ばす学園
その学園では六歳頃の初等部相当の子から、高等部ぐらいまでいろいろな生徒が通っている。
異能とはすなわち超能力のこと。
人の心や物の声などを聴くことの出来る「テレパシー」や、物を燃やすことの出来る「イグニッション」、直線か渦巻きのような助走が必要なものの、遠くに一瞬で転移する「テレポーテーション」など、異能と言っても様々である。
もちろん学園では異能者を育成するのだが、まれに事件が起こることもある。
現在進行形のこの事件のように。
「学園生の皆さんにお知らせします。ただいま一階、特別校舎連絡通路にて学園生二名による反逆行為が発生しました。危険ですので学園生の皆さんは速やかに寮に避難してください。なお、現時点において人質が数名いるものと予想されます」
アナウンスが聞こえた。途端に生徒全員が一斉に寮に向かって走り出した。
当たり前だ。なぜなら暴走した異能者は
それも生徒は皆成長途上の異能者で世間一般の「通常の異能者」より弱いのは火を見るよりも明らかだ。
異能者の暴走は異能のリミッターが外れることで起きる場合もあり、その逆もある。
暴走は命を削り、やがて死に至る。最悪な事態だ。
「はぁ、逃げるの面倒臭いな」
僕はそんな中逃げるのが面倒臭く、暴走した異能者を気絶させようとする。
「
不可視の魔術を掛けたところで、熱源探知などには引っかかるので、姿も変える。
「
そして、一階特別校舎連絡通路に向かった。
僕を待つようにと言うのは無理があるが、二人で……いや、正確には二人を中心としたハーレム逆ハーレムが構築されていた。
恐怖政治的なものか、洗脳なのかは一切分からなかった。
だが、状況が状況なので、素早く気絶させることにする。
これで、もしも僕が洗脳されたらさらに危険だからだ。
「「
二重詠唱で軽々と二人の意識を刈り取るよう魔術を使った。
そう、人間は誰しも超能力――異能を持っているが、それは純粋な人間に限った話である。
僕を含む所謂「亜人」は異能の代わりに魔術という技能を持っている。
純粋な人間族には死にかけたりして霊界と繋がったりしない限り
だが、魔術は違う。
魔素や精霊に干渉して、様々な奇跡を起こせるのだ。
それこそ、異能では到底実現できないような事も出来てしまう。
もちろん魔素の操作や、扱える魔素の量。身体が自然に吸収する魔素の量――魔力量――などのほとんどは才能に影響されるものの、努力で覆せる。この点において異能とは違っていた。
「不審者がいるぞ。暴走した異能者は気絶している。あいつを引っ捕らえろ!」
「まずいな……」
不可視の効果時間を考えていなかった。
変身は自ら解除しなければそのまま続くのだが、不可視は一定時間内にかけ直さないと途切れるのだ。
当初の目的は達成されたため、一目散に逃げる。
「
「ここまで来れば安心か」
逃げた先は教師もめったに来ない校舎の裏だ。
「
面倒なことになったなぁ。
とりあえず、変身の姿を変えなくては……
「やっぱりここに居たか」
これからのことを色々と考えようとしたときに
二人は僕が亜人族であることと、異能ではなく魔術を使っていることを知っている数少ない人である。
「高橋先生、二宮先生。暴走した異能者は魔術で気絶させておきました」
「幸矢くん、いくら魔術が異能より強いからって、暴走した異能者を気絶させなくても良いのよ」
「ですが……」
「幸矢がけがしたら俺たちが面倒だからな。報告書なんて書きたくないからな、無理はするなよ」
「分かりました。自己責任が通せるときは通しますので、そこはお願いします」
「分かった」
優しい教師で良かったと思う。
世の中には体罰やセクハラなどを平気で行う最悪な教師も多いという。
アニメなどでの主人公補正が掛かった若い教師が誤って女子更衣室を開けてしまうは別に演出として理解できるが、現実で起ころうものなら大問題である。
この学園の教室にはカメラとマイクが取り付けられており、問題を起こした教師は問答無用で処罰される。5:5程度であれば教師が負けるほどに生徒の立場が高い。
そんな厳しい環境だからこそ、良い教師が来るのだろう。
さて、教師もめったに来ないこの校舎の裏は監視カメラやセンサー類も一切無く、事件や事故があっても適切な処理が出来ない場所である。
しかしながら二メートルを優に超えるフェンスもあり、たどり着くまでに川を渡る必要があるので、ここから不審者が侵入することはない。
と言っているものの、動物にはこの限りではない。
なぜ今、こんなことを言っているのか?
それは目の前で猫と犬ときつねとたぬきを合わせたようなよく分からない生物がこちらに向かってきていたからであった。
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