第017話

 装備を整えた先生と生徒達が玄関先に集まった。


 装備は丈夫で柔軟性のあるトレーニングウェアのようなぴったりした服の上に女子生徒は動きやすいおしゃれな服に胸当て、腰当て、それぞれ訓練してきた武器を、男子生徒はトレーニングウェアの上に胸当て腰当て武器を所持している。


「誰からいくか決めてる?」

「私からです。その次からは名前順にしました。」


 先生コヤナギ チエが答える。


「わかった。じゃあダンジョンに出たら一対一の状況を作るから、魔物、ゴブリンと戦ってもらう。」

「「「はい。」」」

「全員がゴブリンを斃せる実力があると断言しよう。」

「「「……」」」


 ケイマの言葉に数人が自信に満ちている表情を浮かべる。


「しかし、最後に止めを刺すことができないかもしれない。」

「「「……」」」


 先生と生徒達が顔をしかめる。


「それでもいい。何度も言ってるが殺れなくても見捨てたりはしない。」

「「「……」」」


 ケイマがそう言うとしかめっ面が少し収まる。


「だが、躊躇したら自分か周りのやつ、仲間が、友人が、守りたい人が、最愛の人が傷を負ったり、殺されるかもしれないことを覚えとけ。」

「「「……」」」

「そして止めを刺すか相手が何もできないようにするまで決して敵から目を離すなよ。最後まで油断するなということだ。わかったか?」

「「「はい。」」」

「では、行こう。『ゲート』」


 ケイマは最初に捨てられた行き止まりを行き先にして扉の向こう側に誰もいないことを確認し先に扉を潜り、再度安全を確認した。

 手招きして全員が出てきたら、ゲートを消す。


 分かれ道の先にちょうどよく一体のゴブリンを感知する。


「ここが、ダンジョン……」

「明るいね。」

「すーはーすーはー。」

「あ、ここ私達が捨てられたところだね。」

「そうなんだ。」

「私の初めてはここだったよ。」

「「「えっ?」」」

「破廉恥ですっ!」

「初が野外プレイだなんて……」

「えっ?な、何勘違いしているのっ?ゴブリンを斃したのがここで初めてだったってことだよっ!私、まだしたことないよ!」

「ま、間際らしいのよ!」

「もう、勘違いしちゃったよ。」


 深呼吸をして自分を落ち着かせる者、周りを見る者、呑気に会話する者達、顔を赤く染めあげる者がいる。


「皆、もうここは敵がいる場所です。状況を考えましょう。」

「「「あ!はい。」」」


 先生コヤナギ チエが浮わつく生徒達を注意した。


「先にちょうどゴブリンが一体いる。進もう。」

「「「はい。」」」


 一分もしないうちに分かれ道までくる。

 ケイマが小声で話す。


「静かにな。この先にゴブリンがいる。」


 先生が頷き、壁に張り付いてゆっくりと先を見て、確認している。


「行きます。」

「あぁ。」

「「「頑張って(頑張れー)。」」」


 先生コヤナギ チエはもう一度先のゴブリンを確認した後、身体強化を使い、アースボールを二回発動させた。

 一つをそのまま空中に留まられ、もう一つを手に持って、それをゴブリンの向こう側に投げた。


 ゴブリンがアースボールが落ちた音に反応し見に歩き出した瞬間、先生は後ろ姿のゴブリンにアースボールを放ち、追いかけるように走り出す。


 先生の走り出す音に気づきゴブリンが振り返る反応を見せるが遅かった。

 振り返る途中のゴブリンの横顔にアースボールが直撃する。


 先生は体勢が崩れたゴブリンに追撃で足首の腱を切りつけ、倒れたゴブリンの背中を踏んで、体重を乗せて剣を心臓に突き刺す。

 びくんびくんと身体を跳ねてた後魔石を残し消えた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」


 先生は剣を突き刺した体勢のまま荒い呼吸をしている。


 ケイマは先生の剣を握っている両手をゆっくり開かせる。


「頑張ったな。お疲れ様。」

「はぁ、はぁ、はぁはぁ、すーはー、すーはー。ふぅ、ありがとうございます 

。これは、嫌な感じですね。」

「そうだな。」

「でも、これで抗えます。」

「あぁ、まぁ、無理はしないようにな。」

「はい。」

「「「先生、お疲れ様ー。」」」

「ゴブリン、弱かったね。」

「消えちゃうんだね。」

「聞いていなかったの?ダンジョンの魔物は死ぬと魔石、稀に素材等を残して消えるってカワカミ君が言っていたじゃない。」

「き、聞いていたよ。ほ、本当に消えちゃうんだねって意味だよ。聞いていたよ!」

「いや、必死になるほど、怪しいわよ。」


 生徒達は先生が簡単に斃したからか気が緩み、わいわいと騒ぐ。

 先生がぱんぱんと手を叩き注目を集める。


「はい、皆。さっきも言ったけど敵がいる場所だから、遠足や修学旅行ではないから騒がないように。」

「「「はーい。」」」

「ケイマ君、どっちに行くの?」

「あっちは入り口だから、こっちだな。」

「じゃあ、皆、警戒しながら行きますよ。」

「「「はーい。」」」


 生徒達が緊張感のない返事をする。

 しかし、いざ自分の戦闘の順番になると緊張して無駄に力が入っているのをケイマは感じ取った。


 戦っている内に解ける者もいれば解けない者もいた。


 ゴブリンの反撃を受けた生徒がいたがケイマは助けに入らなかった。

 先生や精神的に余裕がある者が助けようとするのを止める。

 「なんでっ!」「助けないっ!」と睨まれたが、無視して戦闘を見ていた。


 痛みを耐えながら、戦闘を終わらせた女子生徒にケイマは回復魔法をかける。

 彼女エンドウ サトリが先生達に「こういう経験も大事だよ。だから、カワカミ君を睨んじゃ駄目だよ。カワカミ君、戦闘を中断しないでくれてありがとう。」と言った。


 ケイマは理解しているエンドウ サトリに感心した。




 最後の止めを刺すところで涙を溜めり、葛藤して時間がかかった者が何人かいたがなんとか全員がゴブリンを斃した。


 もう少しで昼食の時間だから、それに初戦闘で初討伐だったからということで、ケイマはライアがいる異空間のゲートを開いて、先生と生徒達を連れて戻った。

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