第009話
気絶しているナカムラ ユウヤ以外の子供達と先生は扉を潜った先の光景を見て驚きのあまり身体が固まった。
何もないところに扉が出現することにも、競技場のようなところから扉を潜れば月明かりで照らされ輝く綺麗な植物が一面に広がるところに移動したりと頭の処理が追い付かなかった。
「ついてきてくれ。」
俺は子供達と先生に声をかけて、ユウヤを引きずりながら歩き出す。
女子タチバナ シオリが駆け寄ってきて俺の隣を歩く。
「カワカミ君、ここはどこ?」
「私は誰?」
「違うよー記憶喪失じゃないよ!もう!あれ稲穂だよね?日本のどこか?」
「稲穂だが異世界産なんだ。」
「じゃあ、日本じゃないんだね。」
「そうだ。」
「……」
「……」
「……そういえば、ミヨちゃんのことをミヨって呼んでいたよね?いつの間に呼び捨てで呼ぶ仲になったの、かな?」
俺はタチバナから発せられる覚えのある威圧感に身体をビクッと震わした。
俺のことを好きな女性が発したものと同じ威圧だ。
その都度誤魔化したら、酷くなることを何度も経験していたが、今回は別に誤魔化すことでもないことから素直に答える。
「ミヨって呼んでほしいと本人に言われた。」
「へぇー、ミヨちゃんから。」
「あぁ。」
「じゃあ、私のこともシオリって呼んで。私もケイマ君って呼ぶから。」
「あ、あぁ、わかった。」
「ケイマ君。」
「な、なんだ?」
「シオリって呼んで。」
「……」
「シオリって呼んで。」
「し、シオリ。」
「うん♪」
俺がタチバナをシオリと名前で呼んだら、威圧感が消えた。
「ミヨちゃんに会いたいから先に行くね!」
シオリがにっこり微笑みながら言って、屋敷へ走っていった。
俺は足が止まり、威圧感が消え内心でほっとため息を吐き、走っていくシオリを見ていた。
俺はいつシオリの好感度を上げていたんだ?と思うくらい、彼女から好意を感じ取ってしまった。
またしても召喚された者……
「目的地はあそこ?」
「あ、あぁ、そうだ。」
女子ヨコタ チカが声をかけてきて、それに答えて俺は歩き出す。
「私も花を摘みに行きたい。」
「はぁ?」
「シオリが走ったのは我慢できそうになかったからでしょ?」
「……あぁ、そういう意味か。たち、シオリはミヨの顔を見に行ったんだ。」
俺はタチバナと言おうとしたら寒気を覚え、シオリと言い直した。
「玄関を上がったら、真っ直ぐ進み階段を上がらずに右奥へ進む。廊下が続いているから道なりに進み、突き当たりが目的地だ。」
「わかった。」
「他の子も一緒に連れていってくれ。」
「うん。」
ヨコタが元いたグループのところに戻り、女子全員プラス先生が彼女と一緒に屋敷へ早歩きで向かった。
「女子は何で走っていったんだ?」
「花を摘みに行ったんだよ。」
「はぁ?意味わかねぇんだけど?」
アイサカが理解していない男子カネウチ タダシに近づき小声で話す。
「(トイレに行ったんだよ。)」
「はぁ?最初っからトイレに行ったって言えばいいじゃねぇか。」
「「……」」
「な、なんだよ。」
「「いや、なんでもない(よ)。」」
俺達も屋敷に到着した。
玄関を開けるときちんと靴が並べてあった。
さすが女子だなとか男子だったら絶対脱ぎっぱなしで並べないで上がるぞと俺は女子達に感心しながら男子全員にクリーンの魔法を使う。
異世界で過ごして大雑把な男が多くいたためそういう偏見を持ってしまった。
実際多くの男子がそういう行動をしていた。
そんななか綺麗に他の男子の靴まで並べているアイサカを見て、俺は目をこれでもかと見開き驚いていた。
アイサカが俺の視線に気付く。
「な、なに?」
「アイサカ……お前、女だったのか?」
「はぁあ?僕が女?何を言ってるの?」
「シラキとは……百合だったのか。」
「まってまってまっって、僕、男だからっ!」
「……本当か?」
「み、見たことあるでしょっ!」
「確かに、あったな……ふたなりか……」
「いやいやいや、なんでそうなるのっ?どうしてっそこまで僕を女にしたがるんだよっ!」
涙目のアイサカの大きな声に近くの男子達が集まる。
「なんだなんだ?」
「アイサカ泣いてね?」
「なんかアイサカがカワカミになんで僕を女にしたがるんだとか言ってた。」
「カワカミってそういう趣味だったの?」
「いや、俺はノーマルだから。恋愛も性的対象も女性だから。ごめん、アイサカ。ちょっと驚きすぎて正常な判断ができなかったわ。」
「う、うん。わかってくれればいいよ。一応言っとくけど僕もどっちの対象も女性だからね。」
ちょっとした(俺が原因の)騒ぎがあったが、俺は男子達を和式の大広間に案内する。
ユウヤを縄で手足を縛り、奥に転がしておく。
男子達に「何を言われてもほどくなよ。」と少し威圧しながら言った。
するとニヤニヤ組は激しく縦に首を振り、アイサカ達は「わかった。」と返事をしたり頷いた。
あの威圧感を発したシオリを思い出して俺は男子達に大広間で待っててもらい、ミヨの部屋へ向かう。
自分の足音しか聞こえない。
自然と急ぎ足になっていた。
俺はミヨの部屋の前に立ち、深呼吸してコンコンコンとノックをした。
「はーい。どうぞー。」
俺は普通?のミヨの声がしてほっとした。
ミヨの部屋に入るとシオリとライアがいた。
仲良さげな雰囲気を出している。
「ケイマ君、おかえり。こんな早く皆を連れて帰ってくるとは思ってなかったよ。」
「あぁ、ただいま。全員が同じ場所にいたからな。手間が省けた。」
ミヨが話ながら俺に近づき怪我をしていないか確認する。
「ケイマ君は、怪我は、ないね、良かったぁ。」
「……あれくらいは、な。」
「強いって聞いても心配なんだよ。それで、どうしたの?」
「あー、大広間に集合ってことを伝えに来た。女子達は?」
シオリの威圧感が不安でとはおくびにも出さずにミヨに答え、ライアに女子達の居場所を聞いた。
「女性達はお風呂に入ってます。私は彼女達がお風呂から上がったら大広間に案内しますね。」
「私もお風呂にささっと入ってこようかな。」
「私は先に入っちゃったから、ケイマ君と一緒に行くね。」
女子達は風呂に入っていたから会わなかったわけか。
俺はお風呂に行くライアとシオリと別れてミヨをつれて大広間に戻った。
「本当にニシムラも生きていたんだな。」
「信じていなかったんだな。」
「そりゃあ剣をぐさりと刺されたのを見たからな。」
「やっぱりドッキリなのか?」
「普通に致命傷だもんな。」
「確かに。」
「本当のことを教えろよ。」
「それは女子達が来てからな。お前達は俺達が捨てられた後は何があったんだ?」
「あの後は━━」
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