第008話

 ライアは部屋の扉を開けミヨを見て「精のつく夕飯ができましたよ。」と冗談を言った。ライアは夕食と言ったが、塩おにぎり二つの軽食だった。冗談だと丸わかりだった。


 ミヨはケイマと小説やアニメの話で盛り上がっていて、彼女的に良い雰囲気になったところにタイミングよく部屋に入ってきたライアの言葉を真に受けて顔を赤く染めて俯く。


 ケイマはライアがタイミングを図っていたなと思った。そしてライアと目が合い、ミヨの反応が初々しく可愛くてからかいたくなるのはわかるが、ミヨにそういう冗談を言うのはやめろと込めて一瞬睨んだ。


 ケイマとミヨはライアが作った塩おにぎりを美味しく頂いた。


 その様子をライアは微笑みを浮かべ見ていた。


「行ってくる。」

「いってらっしゃいませ。」

「ケイマ君気を付けてね。」

「あぁ。遅かったら寝てていいからな。」


 ケイマは扉を設置する先に誰もいないことを確認し、扉を出現させた。開けると捨て置かれたダンジョンの中が先に見えた。確認した通り誰もいない。扉を潜り再度周囲を確認して扉を閉め扉を消す。




「行くか……」


 俺は成長した身体の動きを確かめながら出口に向かう。この階層ではゴブリンは一体か二体で配置されているようだ。


 俺は出てきたゴブリンの懐に入り手と腕を部分強化し魔石があるところに貫手を放ったり、強化した手刀や脚の蹴りでゴブリンの首を刈り取った。容易にゴブリンの肉体を貫き斬った。魔石を回収し、洗浄の魔法で手足と魔石の汚れを落とす。


 魔石はゴブリンの小さい魔石でも使い道があるから、回収洗浄しては収納の魔法で仕舞っていった。


 ゴブリン以外とは遭遇しないでダンジョンから出た。

 ダンジョンは頑丈が売りの装飾のない扉一つと窓がない壁天井に明かりの魔法具が設置されている建物の中にあったようだ。


 魔物氾濫対策のためであろうが、素材を見る限りあまり意味がなさそうだと思った。


 俺は扉の先から本番だなと気配を探ったが、扉の先に見張りの気配を感じなかった。その先も探ったがいない。

 ダンジョンの異常を逸早く察知するための見張りが一人もいないことに、呆れてため息を吐いた。


(子供を簡単に殺すような国だから何が起こっても別にいいが……まぁ、楽だからいいか……)


 俺は意識を切り替えて、扉を出て進む。

 建物の近くに見張り用の寄宿舎だと思われる建物があったがそこも誰一人の気配も感じなかった。常に探知をしながら進む。


 ある程度進んだところでマークしていた覚えのある魔力を感知した。

 いくつか少しだけ魔力が乱れている。


 感知を強めてみるとマークしていた子供達と先生の魔力が同じところにいるのがわかった。そこに知らない魔力が数十人いる。


(どういう状況かな……)


 さらに進み、子供達がいる場所は円形の競技場のような建造物の中のようだった。


 中に入り通路と上階段を見つける。階段を上がって行き、子供達を見下ろせるところに出た。

 多数対多数の模擬戦ができる広さがあった。


 建物の入口から離れたところで女子達と先生、彼女らの近くに騎士に押さえつけられている数人の男子を一部の男子達と騎士達が取り囲んでいた。






「お前から好きな女を選んでいいぞ。」


 ナカムラ ユウヤと一部の男子、騎士と魔法士達が先生と女子達を囲んでいる。その先生と女子達の首には首輪が付けられている。


 位の高い騎士が召喚された中で魔力が最も高かったユウヤにそう言った。


「ユウヤ君!こんなことしちゃ駄目だよ!」

「黙れっ!」

「うっ、おええ。」


 ユウヤを止めようとしたアイサカ ハルカは自分を押さえつけていた騎士に顔を殴られ腹を蹴られ嘔吐する。


「何良い子ぶってんだよ。お前も好きな子とヤれるんだぜ?」

「む、無理矢理じゃないかっ!」

「それが許される世界だ。郷に入っては郷に従え、だろ。」

「おい、早く選べ。」

「は、はい。」


 同級生には高圧的に、自分より強い者には低姿勢なユウヤは女子達を物色する。


「そ、それでも、駄目だよ、ユウヤ君。」

「お、良いこと思い付いた。」


 ユウヤは止めようとするアイサカを見てにやりと口角を上げる。


 アイサカはユウヤの顔を見て、何かを察してしまった。


「ま、まさか。」

「あいつはタイプじゃないけど、俺、寝取られって好きなんだよ。寝取られた男の絶望した顔を見るとめっちゃ興奮するんだっ!俺が調教してやるよっ!ということでっ!」

「や、やめろっ!」

「黙れっ!」


 抵抗するアイサカは騎士に地面に押さえつけられる。


 ユウヤはある女子生徒に近付く。


 先生と女子達がユウヤに色々言う。


「ナカムラ君、犯罪よ。いけないことよ。」

「うっせ!」

「あなた達最低よっ!こんなことして許されないんだからねっ!」

「誰が許さないんだよ?俺達は許可されているんだよ!」

「日本に帰ったらあんた達刑務所暮らしだからっ!やめるなら今よっ!」

「こんな良い世界だ。俺は帰らないぞ?」

「「「俺も(僕も)。」」」

「「「なっ!?」」」


 ユウヤに同意する一部の男子、その男子達に先生と女子達は驚愕した。


「良かったな、お前らはアイサカの好きなやつじゃなくて。ということで、カエちゃあああん、お前だ!お前のことを好きなアイサカを恨むんだな。」

「い、いやっ、」

「こいっ!」


 ユウヤはその女子シラキ カエの手首を掴み、アイサカの前に引っ張り連れていく。他の何人かの男子がにやにやと気持ち悪い笑みを浮かべている。


「ちゃんと見ているよ。」

「やめろやめろやめろ。うぅぅ」

「ひっひひ。」

「いやいやいやあああ。」


 ユウヤは厭らしい笑みを浮かべながらカエの服に手をかける。


「ぐっ……」


 カエの服を破ろうとしたユウヤが突然呻き声を上げ倒れた。


 アイサカは押さえつけが弱まり騎士を跳ね除け、カエに駆け寄る。ついでに倒れていたユウヤを踏みつけた。カエを助けた人が横に立っていたのに気がつき、見たことのあるような……とアイサカは疎外感を感じた。


「あー、さすがにないわ。ないわー。こいつこんなヤバいやつだったのか。」

「「「誰だっ!?」」」

「「「?!」」


 その場にいた全員が突如現れた男に驚く。


「郷に従えって言っても、犯すことを意気揚々とヤろうとするなんて精神異常者じゃないか。」

「「「無視をするなっ!」」」


 無視された騎士達は突如現れユウヤを倒しカエを助けた男性に襲いかかる。


「そこの一部の男子もにやにやするだけで助けようとしない。うちのクラスって犯罪予備軍が多くないか?な?」

「えっ?いや、まぁ、た、確かn危ないっ!」

「大丈夫大丈夫。」


 余裕そうにアイサカへ同意を求めた男性は迫り来る剣を手で払い、受け流し、避けて、斬りかかった騎士達を殴って、蹴って飛ばす。

 あっという間に襲いかかってきた騎士達を倒した。一人の騎士を残し全員が呻き声を上げ蹲っている。


 (圧倒的だ……)と自分達は助かると安堵する気持ち、(彼がいなかったらどうなっていた……)と何もできなかった力のない自分に悔しい気持ちがアイサカの心の中を乱した。


「「「ぐぅぅ……。」」」

「一人の賊に情けないっ!私が相手になってやろう。」

「助けたくないけど、子供だからな……。」

「た、助けてくれるんですか?」

「アイサカと数人の男子と女子は確実に助けるけど、予備軍は、な……」

「な、なんで、僕の名前を?」

「あぁ、それ「私を無視するとはっ!万死に値するっ!死ねえええ!」」

「危ないっ!」


 さっきの騎士達より早いとアイサカにはそう見えた。けど、男性には多少早いことは関係なかったようだ。


 驚くことに男性は騎士の剣を指で掴んで止めた。騎士の顔が赤くなっていることから騎士が力を込めているのがわかるが、剣は全く微動だにしない。


「なっ?!ふんんんん。」

「弱いな……。」

「なああにいいい!第二騎士団団長の俺が弱いだとおおお!」

「全力で力負けしている時点で弱いだろ。」

「ぐぬぬううう。」

「ほい。」

「ぬっ!」


 男性は剣を掴んでいる手を斜めに動かした。第二騎士団団長という騎士が体勢を崩す。騎士が体勢を崩した瞬間、騎士団長の頭に上段蹴りを喰らわせた。


 騎士団長が身体をぐらっとさせた後、倒れる。起き上がる様子がない。気を失ったようだ。

 騎士全員が地面に倒れている。呻き声以外聞こえない静寂に包まれる。


 男性はアイサカに手を向けるとアイサカが光に包まれ、光が収まると汚れが消えてなくなっていた。


 アイサカは顔とお腹の痛みもなくなっていることに驚き、口をパクパクとしている。


 男性は一人一人、女子の首輪に触れる。バキッと音が鳴り首輪が外れて地面に落ちる。


 一人の女子が声を上げて、男性に走って抱きついた。


「カワカミ君っ?!」

「「「えっ?」」」

「ど、どうして?ううん、生きてて、良かったぁ、ぅぅぅ……」


 男性に抱きついた女子タチバナ シオリの言葉に同級生達と先生が驚きの声を上げた。





 俺は自分に抱き付いて泣いているタチバナの背中を落ち着くよう撫でる。


「え?カワカミなの?え?剣で刺されて、死んだんじゃなかったの?」

「え?え?どういうこと?」

「ドッキリ大成功とか?」

「じゃあニシムラさんも生きているってこと?」

「そうじゃない?」


 女子達がざわつく。


「俺もミヨも生きているけど、残念ながらドッキリじゃないんだ。説明するにも先に移動をしよう。『ゲート』じゃあ、ついてきてくれ。」


 子供達と先生が何もないところに突然扉が出現したことに驚き固まる。


 俺はタチバナの腰に手を添え優しく促し一緒に扉を潜る。その後にアイサカがカエを支えながら一緒に潜ったのを見て、先生と女子が続き、数人の男子が潜る。にやにやした男子達が渋々、渋々扉を潜ってついてきた。


 全員が入ったのを確認し扉を消す。一人わざと置いてきた。


「あ、ユウヤを忘れていた。持ってくるわ。」






 数分経ってケイマは気絶しているユウヤの襟足を掴み引き摺って戻ってきた。


 ケイマは召喚時にあの部屋にやってきて取り囲んでいた騎士と魔法使いの魔力をマークしていた。あの場にいた騎士と魔法使いを殺し、あの場にいなかった他の者達の手足を折り、何かを潰し回復妨害の呪いを解かれないよう強力にかけた。

 ついでに首輪、騎士の装備(鎧や剣など)と魔法使いの装備(杖や指輪など)を収納の魔法で仕舞って持ってきた。






 第二騎士団団長の胸には下級騎士の剣が突き刺さっていた。

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