第006話

「……ん?ここは……どこ……?」


 ニシムラ ミヨは目を覚まして、上半身を起こし周りを見た。


「知らない部屋だ……」


 シンプルな部屋に、扉と窓が一つ、ベッドと勉強机、本棚、丸テーブル、クッションがある。日本にどこにもありそうな部屋だった。


「日本?夢だった?」


 ニシムラには日本の何処かにありそうな一室に見えた。ベッドから下り、窓に近付き外を見る。


「綺麗……」


 外は黄金色に煌めく稲穂が見える範囲に広がっていた。窓を開けると稲穂が風で揺れる音と共に稲穂の匂いが部屋に入ってきた。


 ニシムラは窓から身を乗り出す。風で彼女の髪がなびく。


「すーはー。良い匂い……」

「綺麗……」


 ニシムラは女の人の声が聞こえて驚き、窓から声が聞こえた方向を見た。


「!?」

「あ、驚かせてしまいすみません。」


 緑色の髪の女性が洗濯物を抱え、ニシムラを見ていた。


「初めまして、ライアと申します。」


 ニシムラはライアと名乗った女性の綺麗なお辞儀に見惚れる。


「は、初めまして。ニシムラ ミヨです。」

「はい。ニシムラ様のことは存じ上げております。ケイマ様をお呼びに行って参りますので、ニシムラ様はそちらの部屋でお待ちください。」

「え?あ、はい。」


 ニシムラはぼーっとライアがいたところを見てた。数秒経ち正気に戻ってベットに腰掛ける。


「夢じゃ、なかった?」


 そしてニシムラは自身が着ていた服に気が付く。


「せ、制服じゃない?!き、着替えさせられた?!ま、まさか、か、カワカミ君に、は、裸を見られたっ?!」


コンコンコン


 混乱しているニシムラにはノックの音は耳に入ってこなかった。


「入っていいか?」

「もう、お嫁にいけないよぉ……」


 自分の世界に入っているニシムラには入室の許可を取る男の声、カワカミ ケイマの声は耳に入ってこなかった。ニシムラはベットに倒れ込み枕に顔を埋める。


コンコンコン


「入るぞ?」

「す、好きって言ってくれたから、お、お嫁に貰ってくれるかな……」

「入るぞ。」


 ニシムラは枕に顔を埋めながら足をバタバタされていた。


 ガチャと扉が開き声をかけたカワカミとライアが扉の前でニシムラの行動を見て動きを止める。


「……」

「ああああ、どうしたらいいんだろう。ライアさんみたい綺麗な人がいるし、あああああ……」

「まぁ、ありがとうございます。」


 ニシムラはギギギっと錆びついたロボットの首を動かすかのようにゆっくりと扉の方へ顔を向けた。そこには自身が綺麗な人と言ったライアとカワカミが立っていた。


「え?ライアさんに、カワカミ君……」

「ニシムラ様も綺麗ですよ。それにケイマ様と同じ黒髪が羨ましいです。」

「え?ライアさん……」

「まぁ、元気そうでなによりだ。」

「……い、いつからおそこにおいでですか?」


 ニシムラはさっきまでの行動と聞かれていたかもしれないということあまりの恥ずかしさに頭がおかしくなりかけていた。


「ライアが綺麗だってところだな。」

「そ、そっか。(嫁のところは聞かれなかったのね。よかった……)」

「……(嫁?)」

「……(まぁまぁ。)」


 耳の良いカワカミとライアにはニシムラの小さな声で呟いた言葉が聞こえた。


 ニシムラはベットから下り、カワカミに近付き頭を下げる。


「カワカミ君がここまで運んでくれたんだよね?ありがとう。」

「おう。あんな硬いところで寝たくないだろ?」


 頭を上げたニシムラの顔は赤く染まっていた。


「う、うん。寝るならこんな柔らかい布団の上がいいね。あ、あ、あとこの服もあ、ありがとう。」

「気にするな。あまり制服で寝たくないだろ?」

「そ、それは嫌だね。か、可愛い服だね。」

「そうだな。ライアのセンスは良いからな。」

「ありがとうございます。」

「ライアさんの服だったですか?すみません。」

「いえ、その服はニシムラ様の服です。」

「私の服?」


 ニシムラは着ている服、こんな服を購入した覚えがないのだけど?と首を傾げた。


「ライアが作ったんだ。」

「ライアさんが作ったんですか?!凄いです!」

「ありがとうございます。ニシムラ様を綺麗にするついでに寸法して、ニシムラ様に似合う服を作らせていただきました。可愛い服とおっしゃっていただき嬉しいです。」

「き、綺麗にするって!ということはライアさんが着替えさせてくれたんですね?!」

「はい。」

「(カワカミ君に裸を見られたわけじゃないんだ……よかったぁ……。あ、でもお嫁さんに貰ってくれる理由がなくなっちゃった……)」


 耳の良いカワカミとライアにはニシムラの俯いて小さな声で呟いた言葉が聞こえていた。


「……とりあえず座って話そう。」

「……(まぁまぁ。)」

「あ、うん。」


 カワカミ、ライア、ニシムラは丸テーブルを囲うように座布団の上に座る。ライアが湯飲みをそれぞれの前に置き、中心に煎餅が入った木の器を置く。


「お茶と煎餅だ!?日本に帰ってきたの?」

「いや、帰ってきてない。これは異世界産だ。」

「じゃあ、あの稲穂も?」

「異世界産だな。ライアが品種改良したやつだけどな。めっちゃ美味いぞ。」

「ライアさんが品種改良っ?!凄いですね!」

「ありがとうございます。どうぞ。ニシムラ様の口にも合えば良いのですが。」

「ありがとうございます。いただきます。」


 ニシムラは煎餅をパリッと割り、口に入れて咀嚼する。飲み込んで、お茶を飲む。


「うん!煎餅もお茶も美味しいです。お米も美味しいんだって想像できるよ。」

「それは良かったです。ケイマ様も美味しいとおっしゃっていますので、ニシムラ様にも口に合うかと思います。」

「そう言われると早く食べたいですね!楽しみです!」

「俺も久しぶりのライアの料理が楽しみだ。」

「丹精込めて作らせていただきます!」


 ライアはケイマの言葉に喜びと共に気合いを入れる。


「久しぶりって、やっぱりカワカミ君は一度召喚されたことがあるんだね?」

「あるな。」

「前の時もこんな扱いだったの?」

「いや、前は勇者召喚で待遇は良かったな。」

「じゃあ超ハズレの国に召喚されちゃったんだね、私達。」

「あのクズ共を見た瞬間、念のため準備しておいたら、まさかの当たりを引くとは、驚いたな。」

「そっか……カワカミ君の準備のおかげで私はこうして今も生きているんだね。本当にありがとう。」


 ニシムラは横にずれカワカミに向かって深々と土下座をする。


「俺が勝手にやったことだ。気にするな。」

「ううん、ありがとう。命の恩人だから、その、私にできることであれば、な、な、何でもしゅるよ……」


 途中で顔が赤くなっていたニシムラの顔は更に赤く染まった。


「何でもしゅるよですって。良かったですね。ケイマ様。」

「おい!スルーしてやれよ!噛んだとこもスルーしろよ!」

「いいではありませんか。今のは分かってて何でもしゅるよとおっしゃったのですよ。ケイマ様だからこそおっしゃったのですよ。こんな綺麗な子が奥さんになって良かったですね。」

「いやいや、なに勝手に奥さんにしているんだよ!」

「確実に子供は黒髪ですね。羨ましいです。」

「だからっ!勝手に子供を作るな!」

「カワカミ君の奥さん……カワカミ君との子供……」

「ミヨ、一緒にケイマ様を支えていきましょうね。」

「は、はい。ふ、不束者ですがよ、よろしくお願いいたします。」

「これから家族になるのです。私のことを姉だと思って仲良くしてください。」

「私、お姉ちゃんがほしかったんです!よろしくお願いしますライアお姉ちゃん!」

「おいおい。勢いだけで決めると後悔するぞ?」

「私じゃあ、ケイマ君の奥さんになれない?」

「いや、そもそもライアとは結婚してないからな。妻でも嫁でも彼女でもないからな。」

「え?」

「そんなっ!様々な場所であんなに激しく何度も愛し合ったではありませんかっ!」

「じーーー。」


 ライアの言葉を聞いてニシムラは冷たい目をケイマに向ける。


「ニシムラ、そんな目で見るな。魔力を渡し合っただけだ。ライア、誤解するような言い方するな。」

「しかし、約束したではありませんか。」

「約束ですか?」

「ええ、ミヨ。ケイマ様が次来ることがあったら妻でも嫁でも彼女でもしてやるよとおっしゃったのですよ。」

「ケイマ君……じーーー。」

「あー。わかったわかった。ライアとは結婚する。しかし、ニシムラはダメだ。勢いだけで決めるな。」

「落ち着いてこの気持ちが変わらなければ、結婚してくれる?」

「……駄目だ。」

「……そう、だよね。ぽっと出の私じゃ、駄目だよ、ね……」


 俯いたニシムラからポタポタと涙が落ちる。


「ケイマ様っ?!」

「……すまん。任せた。」


 ケイマはライアにそう言い、部屋を出ていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る