第005話

「ご、ごめんなさい。」


 落ち着いたニシムラが謝ってきた。


「俺も確認するわ。だから気にするな。」

「う、うん。ど、どうやったの?」

「ニシムラ、ここが何処だかわかるか?」

「ここ?」


 ニシムラが俺の質問で周りを見た。


「洞窟の中?」

「ダンジョンの中。」

「だんじょん?だん、じょん……?ダンジョン!?えっ?!もしかしてっ!」

「そうだ。ニシムラの思った通り、異世界だ。ニシムラも読んだりするんだな。ここは異世界の何処かの国が管理しているダンジョンの中だ。」

「す、少しだけね。本当に異世界なの?」


 ニシムラが恥ずかしそうに髪先をいじりながら答え、質問してきた。


「あぁ。魔法がある異世界だぞ。」

「魔法があるのっ?!」

「さっき見ただろ?」

「さっき?」

「空間魔法だ。胸側に入口、背中側に出口を創って出し入れしたわけだ。」

「空間魔法っ!難しい魔法じゃないの?!どうしてカワカミ君が使えるの?!私にも使える?!」


 ニシムラが声が大きくなるくらい興奮してぐっと俺に近付いてくる。


「落ち着けって。教えるから。」


 俺は興奮して近付いたニシムラの肩に手を置き押し返す。


「ご、ごめんなさい。」


 ニシムラが少し離れる。


「っとその前に付いた血を綺麗にしよう。『クリーン』」


 俺は『クリーン』の魔法を使うと、ニシムラの制服に付いていた血が消えて綺麗になる。


「え?消えた!」

「洗浄の魔法だ。」

「おお!凄い凄い!身体に付いた血も消えてる!」


 ニシムラが胸や確認のため手に付いてしまった血も消えていることに気がつき、見て分かる魔法の効果に興奮しているのがわかる。


「女子必需魔法だ!教えて!カワカミ君!」

「教えるから、落ち着けって。」


 俺はまた興奮して近付いてきそうなニシムラにそう言いながら、通路の先を見て、彼女の横を歩き、彼女の少し後ろで背を向けて立ち止まる。






「すーはー。すーはー。ごめんなさい。自分が魔法を使えるかもって思ったら興奮しちゃった。ん?どうしたの?」


 ニシムラ ミヨは自分を落ち着かせるため深呼吸をした後、カワカミに謝り、カワカミが背を向けて立っているから首を傾げて疑問を口にした。


「ニシムラ、ダンジョンといえば?」

「宝箱やドロップ品で一攫千金。」

「他には?」

「モンスターとか魔物と云われる者が、あっ!」

「そう。魔物が来るぞ。」

「え?だ、大丈夫なの?」


 ニシムラは不安な表情を浮かべ不安そうな声でカワカミに言った。


「余裕だな。」

「す、凄い自信だね。」

「まぁな。」


 ニシムラは腕を組み余裕を持って立っているカワカミの姿を凄く格好良く見えた。それは今まで知っている彼、同級生ではなかった。ニシムラにはどうしてかわからないが彼が物凄く大人に見えた。

 しかし魔物という言葉にニシムラの心に不安の気持ちが膨らむ。


「た、斃せるの?」

「人でも魔物でも殺れる。殺さなきゃ俺達が殺されるからな。『敵には容赦をするな』が師匠の教えだからな。」

「……」

「まぁ、ニシムラは俺のようにならなくていいさ。」

「……ううん。ここ、異世界なんだよね?じゃあ私も斃せるようにならなきゃ……死にたくないもん。」


 カワカミは振り返りそう言ったニシムラの目を見る。彼女の目を見て、(なんて、強い目をしているんだ)と感心した。


「ねぇ、カワカミ君。これから来る魔物、私でも斃せる?」

「一層の魔物だから殺れるだろうな。あとは覚悟ができているか、だな。」


 カワカミはニシムラの目で返答はわかりきっていたが彼女に他の選択肢を言う。


「帰るまでの衣食住を用意してやるぞ?別に殺さなくても生きていけるぞ?」

「ううん。殺る。」


 ニシムラは覚悟を決めポケットからヘアピンとヘアゴムを取り出し、髪を纏める。


「そうか。じゃあこれを。」


 カワカミはニシムラの返答を聞き、何処からか出した丸い形の木の盾と木の剣を彼女に渡す。


「アイテムボックス?!」

「いや、似たようなもんだが空間魔法の収納だ。一体だけニシムラに向かわせるから。」

「う、うん。わかった。」

「相手の攻撃は基本避けろ。避けれない時だけ盾で使え。」

「はい。」

「攻撃は迷うな、躊躇をするな。」

「はい。」

「無理だと思ったら呼べ。」

「わかった。」

「行くぞ。」


 通路先から何者かがカワカミとニシムラの方に近付いてきた。


 ニシムラは受け取った盾を左手に、剣を右手に持ちカワカミの後を追う。見えたのは緑色の肌の人が三人。


 双方の距離が近付く。


 相手側も二人に気付いたようだ。「ギャッ!」「ギャッギャ」と何か言っている。


 背が低い、お腹が出ているが筋肉がついているのがわかる。禿げ頭に耳と鼻が長く尖っていて目は鋭くつり目、口は大きい三日月のような形で並びが悪い歯が見える。武器は棍棒、防具はなし、服は腰布のみ。


 ニシムラは緑の姿に少し眉をひそめる。


「あれは、ゴブリン?」

「そうだ。そこで待っていろ。」

「はい。」


 カワカミはゴブリンに向かって走る。


 ニシムラはカワカミのあまりの速さに「速い!」と驚いて声を出した。あっという間にゴブリンに接近したカワカミが一体のゴブリンの後ろに回り、ニシムラの方へ蹴り飛ばした。


「無茶するなよ。」

「はい。」


 ニシムラは一度深呼吸して蹴り飛ばされて転がっているゴブリンに向かって走った。起き上がろうとしているゴブリンの頭に剣を振り下ろすが、寸前にゴブリンが横に跳んで避けられ狙いが外れ耳の裏に当たる。


 ゴブリンは「ギャアアア」と叫び耳の裏を片手で押さえ、跳んだ先でニシムラを睨みながらふらふらと立ち上がる。


 ニシムラはゴブリンの行動に注意しながら近付き、ゴブリンの脇腹へ剣を横に振るった。ゴブリンが反応できず剣が脇腹に当たる。ゴブリンが脇腹を手で押さえ少し頭を下げた瞬間、盾を捨てて両手でその頭に剣を思いっきり振り下ろした。


 ゴブリンは倒れて動かない。ゴブリンの頭が剣の形に凹んでいる。


 ニシムラは再度振り下ろそうと構えた。その瞬間、ゴブリンが消えて黒い丸い物が消えたゴブリンのところに置いてあった。ニシムラはゆっくりと剣を下げ、消えたところをぼんやり見ていた。


「お疲れ様。」

「……うん。」


 ニシムラはいつの間にか戻ってきていたカワカミに驚くこともなく夢心地なまま返事をした。


「どうだ?大丈夫か?」

「よく、分からない。潰れた感触が残ってて嫌な感じがあるんだけど、ゴブリンはすぐ消えちゃったから、本当に殺したのかな?って……」


 ニシムラは握っている剣を見ながら言った。


「ダンジョンだからな。」

「ダンジョン、だからか……」

「そんな不安そうな顔をするな。殺せなくても置いていくことはない。守ってやるよ。というか逆に初めての殺しで笑顔で『大丈夫!』って言う方が怖いって。それが普通だ。」

「……うん。ありがとう。」


 ニシムラはカワカミの言葉を聞いて不安な気持ちが薄れた。


「なんか召喚される前のカワカミ君と今のカワカミ君って全然違うね。自分のことを僕じゃなく俺って言ってるし、私のことを前はニシムラさんだったのにニシムって呼び捨てだし、異世界デビューってやつかな。あ、でも魔法が使えるから、もしかして二度目の異世界召喚だったりして。」

「おー。おしい!」

「え?」

「いや、俺はニシムラの変わりように驚いてるけどな。こんな表情豊かでこんな話すような子だと思わなかった。」

「そ、そんなひょ、表情豊か?」

「あぁ。あっちではほとんど無表情だったからな。こっちでは怖がり恥ずかしがりわくわくして興奮したり━━」

「も、もういいよ!それ以上言わなくていいよ!」

「おう。」

「あぁぁ、恥ずかしい……」

「無表情キャラも好きだけど、ニシムラは今の方が良い。」


 カワカミが両手で顔を覆い隠して俯いているニシムラにとどめの一撃を与えた。漫画やアニメなら顔全体首まで真っ赤に染まり『ぼふっ。』とか『ぷしゅー』と効果音があって頭から湯気が出る絵が描かれているだろう。

 ニシムラはそのくらい顔も耳から首までも真っ赤に染めていた。


「無表情の私も好きだけど、今の私が好きって……川上君は召喚される前から優しいし、嫌な目で見てこなかったし、今はすっごく包容力が溢れてて安心するし、余裕があって格好良いし、で、でもいきなりそんなこと言われても、ど、どうしよう……」

「おーい。聞こえているぞ。」

「え?はぅ……」


 ニシムラは限界を超えて倒れる。


 カワカミは倒れそうになったニシムラを支える。


「こんなところに寝かすのも可哀想だな。あの空間が残っていると助かるが……」


 カワカミはある魔法を使った。目の前に扉が現れ、その扉を開ける。


「おお。良かった良かった。一から創ることにならなくてよかった。」


 カワカミは扉の先を見て喜んだ。ニシムラをお姫様抱っこして扉を潜る。


 二人が扉を潜り、扉が閉まるとダンジョンに現れた扉が消えた。




ーーーーー

あとがき

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