第004話
「ここでいいよな?」
「ああ。」
坑道の中のようなダンジョンに着いた二人の騎士は少し進んだところで引き摺っていた男と女をぱっと手を離し雑に置いた。
雑に置かれた男子生徒カワカミと女子生徒ニシムラは地面にぶつかる衝撃があっても反応がなかった。
「はぁ、勿体ねぇよな。女なら壊れるまでマワしてから棄てればいいのに。」
「まぁ、見せしめが必要だろ。」
「でもよぉ、犯すのも見せしめになるだろ。男だけ殺して女は犯してから殺すでも良かっただろぉ。」
「でもこんな不気味な女なんかをヤれるか?」
「俺も最初はそう思ったが……。」
ニシムラを引き摺っていた騎士はもう一人の騎士に彼女の顔が見えるように前髪を分けてる。
「意外と良い顔してたんだよ。マジ勿体ねぇ!」
「確かに。まぁまだ十人以上いるんだ。ヤる機会はあるだろ。」
「そうだな!早く戻ってどれにするか予約しとこうぜ!」
「団長達が先だけどな。」
「たまーには最初に頂きたいよなー。」
「団長なれば最初に頂けるぞ。」
「そんなの無理だわ。」
「そうだな。」
「肯定されるのはムカつくな。」
騎士達は愚痴を吐き、他愛もない会話をし、笑いながらその場を離れていった。二人の騎士がダンジョンを出た時、棄てられたカワカミがむくりと上半身を起こした。
俺、カワカミ ケイマは騎士二人が去ったのを感じ、身体を起こし周囲を見た。
前はずっと先に十字路。下はむき出しの硬い地面(草なし)、左は土のような壁。後ろも土のような壁。右は同じく土のような壁と倒れている女子生徒。
「いきなり殺すとかヤバすぎるだろ。子供、女、老人には優しくしろってーの。」
(ただし良い子、良い人に限る。)と口には出さなかったが、それが後ろに続く。
俺は呟きながら隣に倒れている女子生徒ニシムラ ミヨに近付き、彼女の口元に耳を近付け胸の動きを見る。ニシムラの胸が上がったり下がったりしているのを確認した。
「呼吸は安定しているな。」
ニシムラが気を失っているだけだとを確認した後、自身の口元と剣を刺された場所に付いた血を洗浄の魔法を使い綺麗にし、自分の制服に穴が開いてないか確かめる。
「二年ぶりだけど、上手くいったようだな。」
前回の召喚から約二年、記憶を封印されていたが刺された時にある魔法を無事使うことができた。だが魔法が使えなかったとしても、全身鎧の男の動きを思い出し問題はなかったなと俺は結論付けた。
最初のニシムラを刺そうとした動きをほんの少しの魔力循環による視力強化で捉えられ、避けれたこと、その後の動きも見切っていた。剣が刺さる軌道上に魔法を使った。
剣を刺した全身鎧の男に刺した違和感を持たれることなく、魔法使いの年老いた男に魔法を使ったことを気付かれることがなかったことからもコイツらは敵ではないと、魔法を使えなかった時の為に魔力循環での身体硬化をしていたが、聖剣でも魔剣でもなく魔力を纏いもしない剣では制服に剣先の穴が空くだけで身体に刺さることはなかったと結論付けた。
(自分達が見せしめとして殺されたことで子供達と先生が今すぐどうこうされることはないだろう、たぶん。)
「……ちょっと失礼。」
俺は頭の中で変に強がりな子供が思い浮かび少し不安が過るが、気を失っているニシムラに声をかけてから血濡れている彼女の制服の中心を触り、両手で少し引っ張り穴が開いてないか広げて確かめる。
「うんうん。大丈夫そうだ。可愛い制服が破れたりしたら可哀想だもんな。良かった良かった。一応体も確かめるか。」
さらにニシムラの制服のボタンを外していき、ブラをずらしポケットからハンカチを取り出して彼女の胸、心臓辺りの血を拭き取る。
「傷なしで問題なし。うむ、綺麗な肌だ。」
「ん……ん……?え?え?」
俺は目覚めたニシムラと目が合う。
ニシムラが数回瞬きをして、彼女の視線が下へ制服に向かった。顔が赤く染まっていき制服を掴んで胸を隠し後退りする。
「怪我をしてないか確認してただけだ。」
「……」
「制服も血で濡れているだけで穴が開いてない。安心しろ。」
「……あ。」
カワカミの言葉にニシムラが何かを思い出し背を向け、剣が刺さったはずの自身の制服と体をぺたぺた触り、制服の中を覗きこみ「あれ?」「なんで?」「でも……」「これ、血、だよね?」「……」と小さく呟いていた。
ニシムラが制服を整えて、俺を見る。
彼女の前髪で隠れている顔には戸惑いの表情が浮かんでいる。
「か、カワカミ君は大丈夫なの?わ、私達……け、剣で刺されたよ、ね?」
「俺も血で濡れていただけで怪我はしてない。」
「怪我してないんだ、良かったぁ……。でも、どうして剣を刺されて生きてるの?胸、心臓のところに刺されたよね?ち、血が流れていたよ?制服も血で濡れているし。」
「実際は刺さったように見えただけで刺さってないからな。」
「そうなの?もしかしてマジック?これ、血糊だったんだぁ。」
ニシムラが「ドッキリ企画かぁ……」と呟きほっと息を吐いた。
「本当にドッキリ企画なら良かったんだけどな。」
「え?」
「本気で剣を刺してきたんだよ。」
「えっ?ほ、本当?」
「あぁ、本当。」
「……本当?」
俺は真剣な目で不安そうな表情を浮かべるニシムラの目を真っ直ぐ見て、頷く。
「……どうして?」
「どうしてとはどうして私達が刺されたとかどうして生きてるのかってことか?」
「う、うん。」
「刺された理由は先生と同級生達への見せしめとしてだな。俺と西村が選ばれた理由は魔力が少なかったからだ。」
「見せしめ……」
ニシムラが顔を青ざめる。
「そして、どうして生きてるかは……」
俺はニシムラに見えるよう横を向き自分の胸に手を突っ込んだ。すると背中から手が出る。胸に突っ込んで抜いてを繰り返した。
「え?えっ?!だ、大丈夫なのっ?!」
ニシムラが驚きの声を上げた。
俺は胸と背中をニシムラに見せると、彼女が俺の胸と背中を触り擦って確認しだした。
「あ、穴が開いてない!」
「こんな風に刺さったように見えて実際は刺さってなかったから生きているわけだ。」
「っ!?」
ニシムラがばっと俺から離れた。
ニシムラを見ると彼女の顔が赤く染まっている。
(顔色を青白くしたり赤くしたりせわしい子だな。 まぁ、普通の子が異世界に来たらこうなるか)
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