第9話 初めての魔物

 時刻は深夜の1時。リリーは部屋の中でぐっすりなため起きる心配はない。


 俺は事前に物置から取ってあった木刀を刀袋に入れ、足音を出来るだけ立てないように歩き玄関を出る。


「ふぁ、ここまで来れば問題ないな」


(はい、では参りましょう)


 家の駐輪場に置いてあった自転車にまたがり、自転車を漕ぐ。今は春なので夜風が少し肌寒い。


「取り合えず、山の方から行ってみるか。繁華街から反対側だし」


(そうですね。こんな時間に高校生が出歩いているのを警察にでも見つかったら面倒ですからね)


 そうして、妖道山のある方まで自転車を進めた。




◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 そうして、自転車を漕ぐこと30分あまり、アスナが話しかけてきた。


(マスター、ここから2時の方向に小さな魔力を感じました。おそらく最低級の魔物のものです)


「え~と、2時の方向ってどっち?」


(マスターはクロックポジションをご存じありませんか?マスターから見ている方向を12時とした時、時計の何時方向であるかの方位を提示する方法の事です)


「てことはこっちの事か」


(その通りです。これからはクロックポジションで言っていくので覚えてください)


「了解。じゃあ急ぎますか」


 スピードを上げ、アスナが言っていた方角へ進んで行く。そして7分経った頃、アスナからストップと言われたので、自転車を止め、降りる。


「・・・ここに魔物がいるのか?」


 見た所少し古い住宅が並んでいる住宅街なのだが、あぁ、そう言えば魔物ははん、はん。はん何だっけ?


(反鏡世界です。マスターはまだ感じ取れていませんが、すぐそこで魔力が流れています。前に三歩進んでください・・・右に半歩だけ動いてください。・・・そこです)


 言われた通りの場所に来たが何も起こらない。


「え~アスナさん。ここからどうすんだ?」


(反鏡世界に入るための呪文を言います。大丈夫です。長くありませんのでご安心を。入るための呪文は・・・・・・です。では言ってみてください)


「わ、わかった。すぅ~はぁ~、よし・・・・・」


「『マジックインターゲート』」


 すると、俺の足元に小さい魔法陣が展開され、その魔法陣が光始める。余りの眩しさに目を閉じてしまう。


「・・・・ここは」


 目を開けると先ほどと同じ場所だが、どこか薄暗かった。


(ここが反鏡世界。魔物が飛んでくる世界です)


「へぇ~。なんか思ってた場所と違うな」


 もっと禍々しい場所かと思ったけど元の世界と変わらないな。


(では、魔物を、!?マスター屈んで下さい!!)


 言われた通り屈むと何か棒状のものが俺の上を通り、横にあった塀を壊した。


「な!?」


(マスター!後ろに魔物がいます!距離を取って下さい!)


 次の攻撃が来る前に俺は全力で前に走った。そして後ろを振りかえると


「で、デかいスライム?」


(はい、あれは最低級魔物であるスライムです。大きさは通常サイズで2mあります。ですがこの個体は1.8mほどですね。)


「いやいや!?スライムってあんなに大きいものなのか!?普通スライムって小さくないか!?あれはどう考えたってスライムよりもっと上の存在だろ!」


(いえマスター。この世界の魔物のスライムはあのサイズです。しかし、大丈夫です。今のマスターなら勝てます・・・多分)


「多分ってなんだよ!多分って!うわっと!?」


 俺が話していると、スライムが触手をこちらに向かって飛ばしてきたがどうにか避ける。


(マスター、武器がチェーンソーではないので触手は切れません!精々弾く程度です。なのでスライムの真ん中にある核を直接攻撃してください!)


「攻撃してくる触手を避けあの黒いやつを狙えっていうのか」


(はい。チェーンソーなら触手を切って本数を無くして、触手がゼロになってから核を攻撃することが出来ましたが、今は木刀なのでそれしか方法がありません)


「あぁもう!!カッコつけて木刀なんて持って来るんじゃなかった!!」


 俺は刀袋から木刀を取り出す。


 そうして、俺とスライムの戦闘が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る