第39話 勇生のデジャヴ

勇生は、龍吾を、抱きかかえて、商店街を歩いていた。勇生が、抱いていた段取り通りとは、いかなかった。しかし、ホッとしている。妻の父親、優一が、自分に対して、悪いイメージを、持っていなかった事に、正直に、安心をしている。

 「龍タン、これから、どうしましょうかねぇ。お父さんと、散歩でも、しましょうか。」

 とろりとした表情で、龍吾に、話しかけている。緊張も緩み、笑みがこぼれている。そして、ある感覚が、甦ってきた。西鉄天神大牟田線、筑後川を通り過ぎた辺りからの、あの妙な感覚。

 <初めて見る、景色ではない>

 この言葉から、来る感覚。

 「なんやろうな。この感覚。」

 思わず、こんな言葉を、発してしまう。懐かしいという感情ではない。只、初めて来たという、意識がないのである。九州なんて、来た事がないはずなのに、初めて、感じる風景ではなかった。

 「龍タン、なんなんでしょうね。お父さん、ちょっと、おかしいのかなぁ。」

 龍吾に、そんな言葉を掛けるが、もちろん、言葉は、返ってくる事はない。でも、かわいらしい、我が息子の顔で、にやけてしまう。

 「有加と、一緒に寝ているから、有加の夢の映像が、こっちに移ってきたんや…って、そんな事ないわなぁ。」

 なんて事を、考えてみるが、どうも、納得がいかない。

 「もしかすると、有加が口にした風景を、勝手に、想像して、たまたま、想像した映像が、ぴったりと、合ってしまったとか…有加から、そんな話、聞いたことも、あらへんし…」

 色んな事を考えてみるが、この妙な感覚を、理解するまでにはいかない。

 「一番、納得がいくのは、<デジャブ>なんやけど…俺が見た夢の中の景色、この間隔なんかなぁ…どう思いますか、龍タン。」

 もちろん、龍吾からの返事はない。龍吾を相手にして、いい時間を潰している勇生。とにかく、公園らしき所を、探し始める。ベンチに座り、じっくりと、考えてみたくなる。何で、こんな感情が、自分にあるのかを、どっしり据えて、考えてみたくなった。


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