第27話 後日

翌日、ホンダ<life>は、国道371号線を、海に向かって走っていた。

「今日は、どこに、行くんやっけ…」

ガイドブックを手にして、そんな言葉を、勇生に掛けている。川に沿って、整備されている広い国道。昨日の高野龍神スカイラインとは違い、所々に、人の住む匂いがしてくる。

「えぇと、御坊って、所やったかな。龍神で、奮発してもうたから、今日は、安めに、国民宿舎になります。」

語尾を、ガイド風の言い回しにしてしまう勇生。

「御坊って、ここやね。」

そんな言葉を発しながら、ガイドブックに集中する有加。JR天王寺駅で、たまに見かける、御坊行きの電車。古臭い車両、電車の正面に<御坊>と表示されている。そんな電車の事が、頭に浮かんできた。

「勇ちゃん、なんか、レトロの電車があるだって…、えぇっとね、紀州鉄道。全長2・7kmで、日本で、二番目に短い鉄道だって…なんか、そそがれへん。」

ガイドブックを見ながら、そんな言葉を口にする。まぁ、乗りたいのであろう。別に、旅行なのだから、観光するのは、当たり前。

「お前が、乗りたいやったら、乗ってみようや。」

有加は、そんな勇生の言葉を待っていた。昨日の事があったから、思い切り、楽しもうとしている。国道371号線から、国道425号線に入り、印南町を通り、御坊市内に向かう。勇生は、山深き道を、ハンドルを握り、走っていた。


勇生と有加の姿は、紀州鉄道の<西御坊>駅にあった。車を、御坊駅の駐車場に停めて、龍吾を抱きかかえ、JR御坊駅の0番線に停まる、レトロ列車に乗った。

「なんか、雰囲気のある所やね。」

そんな有加の言葉通りの場所。昔、栄えていたであろう町並み。二人は、龍吾と一緒に、古い町並みの散策を始める。

二人は、本願寺、日高田別院に、向かって歩いている。この土地の豪族で、亀山城主であった、湯川直光が、創建した寺とされている。豊臣秀吉が、紀州攻めで焼かれたが、元禄四年(1595年)に、日高坊舎として、再建された。周辺は、寺内町として栄え、<御坊所><御坊様>と呼ばれた事から、この地名起源となったようである。

白い壁の土蔵が、街のあちらこちらに見える路地。有加は、龍吾を抱きかかえて、歩いていた。勇生は、一歩下がって、有加を追う形になっている。<有田屋>という、うだつ風の看板。<薗徹薬局>というレトロな薬看板。そして、昔ながらの酒蔵。二人の瞳には、大正時代の街並みが、映っていた。

「なんか、いいね。勇ちゃん。」

「なんか、落ち着くな。昨日の紀伊山地の自然にも、圧倒されたけど、ここは、ここで、趣がある。」

毎日、大阪という都会の街の中で、生活している二人にとって、この場所の風景に、癒されていた。

「あっ、でも、おばあと住んでいた町に、似ているかも…」

有加は、そんな言葉が、自然に出てくる。失っていた記憶が、普通に馴染んでいた。

「そうなんや。そうやったら、行ってみたいな…」

勇生も、そんな言葉を呟いていた。時間にして、時計の短針が、<十二>を、指していた。龍吾のお腹も、少し、減り始めている。少し、ぐずりはじめる。そんな中、御坊駅まで、2,7kの距離を、小一時間、ゆったりと散策して、時間を過ごした。


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