第15話 続・記憶の整理
「勇ちゃん、不思議やね。今まで、こんな話、した事なかった…」
有加は、ちょっとした疑問を、口にしてしまう。勇生の言葉が止まり、助手席から、有加の事を見上げていた。
「したくても、できんかったんや。」
勇生は、そんな言葉を呟いた。
「エッ!」
「お前の中で、この話は、タブーやったやろ。俺は、話したくても、できんかったんや。」
確かに、触れてほしくはない事ではあった。
「何で、私、そんな事、なんも、いわへんかったやん。」
「惚れた女が、嫌がっている事、話し出来へんやろ。人間、誰でも、触れてほしくない部分は持っている。お前の場合、誰でも、持っている記憶が、なかったわけやろ。自分が、どんな人間であったのか、不安だっただろうし、俺が、子供の頃の話をすると、嫌な顔していたやろ。」
勇生は、そんな言葉を、有加に返す。大げさかもしれないが、勇生の気持ちの中には、有加の<記憶喪失>を、解決したいという思いは、ずっと、持っていた。医者でもない自分が、出来ないというのも、わかっていた。だから、ものの本を、読み漁っていたのだろう。時折、見せる有加の寂びそうな顔を、笑顔に変えたいと、ずっと願っていた。
「色んな本を、手に取り、読んでみた。俺には、何にも出来へん事も、わかってた。只、お前を、見守る事しか、出来へんかった、俺には…」
そんな勇生の言葉に、ちょっとした、疑問を持つ有加。
「本って、何…家には、漫画ばっかで、勇生が、難しい本をなんて、読んでるとこ、見た事、あらへんよ。」
「当たり前やろ。当人の前で、そんな事、するわけないやろ。」
…
有加は、勇生が、そんな事をしてくれていたなんて、知らなかった。気づかなかった。
「だから、ちょっと、うれしいかも…今まで、集めた知識を、こうやって、話が、出来るんやから…」
勇生は、そんな言葉を口にして、軽く、微笑んだ。有加は、そんな勇生の気持ちが、うれしかった。自分の記憶に対して、確かに、避けていた。知りたいと思う反面。怖がっている自分がいた。有加は、見つめ返す。失っていた記憶を、思い出した記憶を、再度、見つめ返していた。
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