第8話 おてんばむすめ
「お疲れ様です。」
京子が、ペコリと、頭を下げて、優一の事を見つめている。
「やっと、寝たばい。有加のやつ…さっきまで、あんなに、暴れていたのに…」
四畳半の部屋に、二枚の布団の上で、有加を挟んで、そんな言葉を交わす。(天使の寝顔)と云うのは、有加の寝顔の事を云うのだ。間違いなく、二人は、親馬鹿である。そんな愛娘の寝顔を見ていたら、さっきまでのウンザリさが、どこかにいってしまう。銭湯から戻り、夕食を食べた後の、有加とのプロレス…子供の体力は、底なしで、正直、まいってしまう。
「本当に、有加は、かわいいな。」
「当たり前でしょ、私似なのですから…」
そんな京子の言葉に、二人は、顔を見合わせて、クスクス笑っている。優一は、我が子の天使の寝顔を見ながら、有加の頭を、優しく撫ぜている。
「優ちゃん、向こうで、一杯、やりますか。」
有加を、起こさない様に小声で、優一に、そんな言葉を掛ける。豆電球だけつけた部屋。音を立てないように、襖を閉める二人。慎ましい親子の時間を残して、部屋を後にする。
ポン!
ギンギンに冷えた大瓶のビール。気持ちいい、栓を抜く音。京子は、片手を添えて、冷え切ったグラスに、ビールを注いでいる。
「ほら、お前も…」
優一は、そんな言葉を添えて、京子に、ビールを勧める。沢庵を、摘みに、二人向き合って、晩酌を始める。
「クワぁー、うまい、一心地、つくわぁ。」
休日のビール。妻と向き合って、飲むお酒は、堪らなくうまい。京子も、言葉には、出さないが、表情が、そう言っていた。
「優ちゃん、明日から、日勤夜勤だよね。」
「あぁ、そうやよ。」
明日の事を考えると、憂鬱になってしまう。優一の職業は、消防職員。現場にいる、消防隊員といった方が、わかりやすいかもしれない。勤務時間のバラバラで、体力的に、きつい仕事。まぁ、自分で、選んだ仕事であるのだから、文句を言っても仕方がない。どんな仕事でも、愚痴と云うものは、付いてくる。しかし、やりがいはある。火災であれば、火の中に、迷いもなく飛び込み、事故であれば、危険を顧みず、先頭に立つ。その為に、日々の訓練、身体を鍛えている。人命を救う仕事。優一は、誇りを持っている。災害は、いつ何時、状況も不確定。気を抜けない仕事であるから、精神的に、憂鬱になるのは、仕方がない事なのかもしれない。
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