忘れ去られた過去

 「私が数年前、しばらく下界に出ていた頃の話だ。たまたま通りがかった街が戦火に呑まれ、それはもう酷い有様であったのだ。少し前に、お前たちが見た光景と似ているかもしれんな。閻魔になりたてであった私からしても、それは地獄と対して変わらないものだった…」


 「それで?それが何か関係あるの??」

 待ちきれなさげな永夜の質問に、閻魔は焦るな焦るなとでも言いたげな表情で一瞬口をつぐんだものの、すぐに再開した。


 「そこで私は思い出してしまった…私が冥界の役人になりたて出会った頃、ここの町外れの館で一人の人間と出会ったのだ…その者は私のことが何故か見えておった。しかも死んでおらずすごく健康体にもかかわらず…」

 

 「前置きが長い!!」

 とうとう常夜にも突っ込まれてしまった。

 「お前らなぁ…」

 バツの悪い顔をしながらも、我ながら語り順を間違えたかもしれないと少し反省をしつつ、再び始めた。


 「用は少しその者に願いを託されていた事をちょうど思い出したのだ。そうして、なんの因果か知らずのうちに私はその場所に引き寄せられ、そこでまだ幼かったお前たちを見つけたのだ…」


 「つまりその人の私たちの親だった人なの?」

 

 「いや、それが断定できないのだ。なにせ二人を見つけた時、半死半霊のような状態であったからな…」

 

 「半死半霊?何よそれ」


 「まぁ、簡単に言えばあの世に首辺りまで突っ込んだ状態みたいなものだ。特に常夜、お前の状態の方がかなり悪かった。おそらく、永夜よりも体が弱いのは、そこらへんの影響であろうな。」


 「私はなんで…そんな状態だったの…?」

 

 「もしかして、戦火に巻き込まれてなのかしら?」


 「おそらくそうであろうな、で、ここからは少し私の推測が入るぞ。その託された願いというものが、数年後、もしこの辺りで姉妹を見かけたら助けてやって欲しいとのことであったのだ。」


 「え?どういうこと?」

 「何か未来を案じていた…のかな…?」


「確証はないが…お前たち二人はその他の王族か貴族の末裔であったのかもしれぬな。争い自体はかなり多発していたようだから、あの者はそんな未来を案じて、最悪の未来を避けるために、人でもない私に頼ろうとした…ざっとこんなところだと私は考えている。」

 

 「まぁ結局私たちこっちの世界にいるけどね。」

 「でも完全に霊化も腐敗化もしてないよ。」


 「とりあえず言うとするならば、お前たちは元々現世の人間なのだ。しかし、当時の私に出来たことは、冥界に連れて行き力を与えることでどうにか生きながらえさせる…いや、こちらにいる時点でそうは言えぬかもしれんが…」


 「まぁ、私達がここの人たちとなんか違うってのは分かってたから、なんか事情はあると思ってはいたから、そこまでは驚きはしないわね。」

 永夜はある程度推測が当たっていたようで、大抵の話に関しては納得した様子であった。


 「…私の身体が弱かったり、あの場所で倒れちゃったのはなんでだろう…」

 常夜の疑問に、閻魔はすぐ答えた。


 「元々の体の丈夫さ、私が発見した時の状態、あとは、あの場所に踏み入れた途端、失ったはずの記憶が少し蘇ったのかもしれんな。それと、お前は永夜に比べて冥界の闇を取り込みすぎたのだ。逆に言えば、こちらの世界にある程度適合してしまったとも言えるな。」


 「ふーん…そうなんだね。」

 思いの外ショックではなさそうな顔つきに閻魔は多少拍子抜けしてしまい、思わず疑問を投げかけた。


 「もっとこう…衝撃を受けるものだと思っていたのだが…」


 常夜は満面の笑みで答えた。

 「だって、一度死んだとしても、またこうしてお姉ちゃんと一緒に居れるんだもん、これが私は一番だと思ってるし、その点、閻魔様には色々と感謝しなくちゃいけないと思ってるよ、」


 「もう!最高じゃない私の妹は!」

 すかさず永夜は妹をぎゅっと優しく抱きしめた。


 二人があまりにも幸せそうな表情だったので、閻魔はただただそれを見つめる他なかった。


 


 

 


 

 

 

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