記憶のほんの小さな欠片

 「だいぶ減ってきたわね…どれくらいやったのかしら」

 「今ので四十五人目」

 「えっ、ちゃんと数えてたの…?」

 「むしろ数えてなかったの…?書類出さなきゃいけないの忘れてるでしょお姉ちゃん」

 「うげっ」


 二人の他にも5.6人ほどの他の冥官たちもこの場所に集ってきていたため、残量的にも残りわずかなところまで差し掛かっていた。この頃には既にこの戦場と化した街並みにすっかり慣れ切ってしまっていた。

 概ねこの中心部の魂を葬送し終わったため、二人は少し離れた場所にも彷徨っている魂がいないから捜索を始めることにした。


 街の中心部から少し離れた所に、二人は屋敷のようなものを見つけた。まるで何かに吸い寄せられるかのように近づいてみると、かなり経年劣化してしまっているのが見受けられ、加えて数十年前まで人が住んでいたようにも見てとれた。

 

 「この建物…」

 「何か、懐かしいような…」


 二人は顔を見合わせた。お互いに同じような感情を抱いていた。

 「常夜、前に仕事でここ寄ったことあったっけ?」

 何か頭の中に引っかかるものを必死で取ろうと、妹に問いかけた。永夜の中にはものすごく引っかかるもの…でも何なのか思い出せない…と言ったもどかしい感情が渦巻いていた。常夜も同じような感情であった。

 

 「じゃあ、入ってみる?」

 中に入ってみれば解決するかもしれないと思った永夜が、常夜の手を引っ張って建物に入っていこうとした瞬間、常夜は非常に激しい頭痛に見舞われた。 

 頭の中が警戒音を強烈に鳴らす。まるで今ここに入れば確実に悪い出来事が待っていることを表すかのように。

 「だめ…ここに入ったら…何か…私たちが私たちじゃなくなっちゃう…」

 

 そう言って、常夜は急に魂を抜かれたように倒れた。

 

 

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