第23話 それから~幼馴染みっていいよね(トーマス視点)~

明日は、ジークフリート王太子殿下の35歳の誕生日だ。



同時に今代の陛下が退位され、ジークフリート様が王位に即位をされる日でもある。



陛下のご予定では、もう少し早くに譲位されおつもりだったようだが、ルピナスシリーズでやることがあるからと、殿下がのらりくらりとそれを引き延ばしていたのだ。



まあ、気持ちは分からなくもないが。



王太子時代も自由とは言い難いが、王のそれとは訳が違う。ローズマリー様が引き受けた事業も多くあったし。



「……で、明日即位ご予定の王太子殿下が、わざわざこちらにいらして何を?」


「ん?新しい宰相殿に挨拶を」


しれっとした笑顔で、ジークフリート様が言う。


確かに明日から、俺も正式な宰相になる。が。



「正直にどうぞ、殿下」


「……暇でな。ローズも、周りも動き回っていて、子ども達すら相手にしてくれん」


「……そりゃ、あんたの為にでしょうが……と、すみません」


「構わない。誰もいないんだ、幼馴染みでいてくれ」


厳しいながらも人懐っこいのは、昔から変わらない。


「じゃ、遠慮なく。まあ、女性は準備が多いし、子ども達も可愛くしたいのでしょうしね。仕方ないかと」


「分かってはいるが。セレナは?」


「……うちも、似たような状況ですよ」


明日が戴冠式のため、その準備で今日は書類仕事は禁止デーだ。だが、そうなると、俺達はあまり役に立たない。


実は俺も、家にいても邪魔そうだったので、明日以降の仕事場の確認ついでに宰相室ここに来たのだ。


「今はちょっと寂しいけれど。明日、着飾ったセレナと子ども達を見るのは楽しみです」


セレナと結婚式して8年。1男2女に恵まれた。


「ああ、それは分かる。何年経っても可愛いよな……」


相変わらずの愛妻家は、真顔でそんな事を言う。


「本当に」


が、俺も同じ気持ちなので、すかさず相槌を打つ。


その様子を見て、ジークがフッと笑う。


「……本当に良かったよ。トーマスとセレナが無事に結婚できて」


「……その節は、ご迷惑を……」


「いや、蒸し返すようですまない。ただ改めて、幼馴染みが幸せで良かったと思ってな」


「ジーク……」


「ローズも俺も、トーマスはセレナにぞっこんだと思っていたが、一時期は焦った。が、俺は何も出来なかったな。でも、こうして嫁を惚気合えるのは嬉しい。ちょっとした夢だったんだ」


一国の王太子が……明日には王様が、そんなたわいもないことで、喜んでくれる。子どもの頃にしか見ていない笑顔を向けられると、かなり気恥ずかしいが、やはり嬉しい。


「ジークには感謝してるよ。もちろん、ローズにも。二人がギリギリで止めてくれた。……自分の唯一の宝を失わずに済んだ。改めて、ありがとう」


「……何だか、照れるな」


ちょっと不思議な時間が流れる。もういい歳の男二人が照れ合っているのも、客観的に考えるとアレだ。



「ま、まあ、ともかく、ローズも美しいが、明日はセレナが一番だと思うが、よろしくな」


半分はぐらかしと、半分本気で、俺が言う。


「何?逆だろう!セレナも美しいが、一番はローズだ!!」


すかさず反論してくるジーク。


その後も、二人で散々嫁自慢と子ども自慢をして、(俺たちにとっては)有意義な時間を過ごしていく。


ああ、幼馴染みっていいよな。


……失わなくて、本当に良かった。


友人として、右腕と呼ばれる臣下として、これからもしっかりと尽くしていこう。




「恥ずかしいから、お城であんまり自慢話みたいにしないで……」


と、ローズと共に俺たちを迎えに来たセレナに言われるのだが。ドア越しにいろいろ聞こえたらしい。



でも、そんな可愛い顔をして言われたら、直せる訳がない。



そう思いながら、ローズに同じような事を言われたジークを見ると、俺と同じ表情をしていて、二人で笑った。




グリーク王国は、今日も、そして明日も、これからもずっと。



こうして、平和を築いていくのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る