第20話 本音とこれから
トーマスと二人で、バルコニーへ出る。ちょっとした休憩所のようになっていて、ちょっとしたソファーも置いてある。
「セレナ、座る?」
「ええ、そうするわ」
トーマスは私をエスコートして座らせ、一人分くらい空けての隣に自分も座った。
「セレナ、改めて、すまない。今までも、先ほども…」
「…謝罪はもういいわ」
「だが」
「それよりも、公衆の面前であのような物言いをして。彼女達を傷つけたのではないの?貴方にも批判が起こるのではない?」
「本当の事なのだから仕方ないさ。……それに今までは、彼女達の方がセレナにやっていた事だろう?俺が言うことでもないけど、彼女達にも反省してもらわないと」
「確かに、貴方が言うことではないわね」
「すみません……」
本当に、元凶が何を言ってるの、とは思うけれど。
「でも……ありがとう」
そして私も人としてまだまだだな、とも思うけれど。
庇ってもらえた事に、少し喜んでしまった自分がいる。
トーマスは驚いた顔をした後に、ばつの悪そうな、何とも言えない顔をした。
「お礼なんて言わないでくれ。そもそも俺が悪いし、……今までは何もしなかったんだから」
「まあ、それもそうね」
「セレナ……」
トーマスは自分で言っておいて、困った顔をする。
そして一拍置いて、息を吸って私に向き直った。
「セレナ。やっぱり何度考えても、俺には君しかいない。……やってしまったことが消せない事も分かっている。けれど、どうか」
「さっきも言ったけど、私、本当に疲れてしまったの」
「……うん」
ちょっと卑怯かもしれないけれど、トーマスの声にわざと被せる。だって数年、本当に辛かった。
「トーマスも見たでしょ?学園でよく絡まれて。すごく煩わしかったのよ?」
「……うん」
「その度に、トーマスは私より他の子の方が好きなように言われて」
「だから、それはない!言ってもいない!!」
「言ってなくとも、誤解を招く言動をしたのは貴方でしょう!!何度も、何度も注意したじゃない……」
悔しくて、涙が出てしまう。やだ、だから話をしたくなかったのに。
「セレナ。……俺が悪い。ごめん。ごめん……」
トーマスに抱き寄せられる。困ったことに嫌ではない。けれど、心の一部が拒絶する。私は両手でそっとトーマスの胸を押して離れる。
「トーマスのこと、悔しいけれど嫌いになれていないわ。でも、一度踏ん切りを着けたの。心から受け入れられないの」
「セレナ。それでも解消したくない!」
「何て勝手なの!」
「分かってる!分かってるよ!!我が儘でひどい奴だ、俺は!」
「……開き直らないでよ……」
「それに、最初に私を助けてくれたのは、貴方じゃなくてエマだわ。私はもう、結婚とかよりも、真剣に仕事がしたいの」
「すればいいよ、俺も今までを取り返す意味でも頑張る。必ず宰相を継ぐ。ルピナスシリーズが上手く回るように尽力もする。結婚は、セレナがしたくなったらで構わない」
「……そんなこと言って、他に好きな人とかできたらどうするの」
「俺はないよ。反省しかないけど、8年間ずっとセレナを好きな気持ちを拗らせていたんだから。これからも変わらない」
「そんなの、分からないじゃない……」
「だから、婚約者として隣で見ていて?他の
「それは、物理的に無理でしょう……。周りに迷惑よ……」
「あ、そっか。じゃあ、必要以上に会話しない」
「……ほどほどで……」
……って!!
「本当に解消する気はないのね?!」
「ない!」
何を胸を張って言ってるのよ……。別の意味で、こんな人だったかしら。
「トーマス、何だか別人みたい」
「そう?…ああ、でも、ハルト様を見習おうと思ったからかな。まあ、ハルト様は格好良かったけどさ、俺は、みっともなくてもすがってでも、セレナに伝えようと」
「ようと、じゃないわよ……」
力が抜けていく感じかするわ……。
「はーーーっ!」
誰も見ていないのをいいことに、思い切り深呼吸をする。頭も心もスッキリする。
「もう、分かったわ。婚約続行でいいわよ」
「本当に?ありがとう、セレナ!」
トーマスが破顔して言う。
「さっきの条件、全部飲むってことよね?」
「飲む、飲みます!」
「……私が、どうしてもトーマスに気持ちが完全に戻らなかったり、他に好きな人が出来たらどうするの?」
「ーーーっ!!」
トーマスがひゅっと息を飲み、若干顔色を悪くして俯く。
「前者は何とか頑張るとして……後者のようなことがあれば……その時は解消、するよ……」
かなりの小声だ。
「でも、結婚してもらえるように、頑張るから!」
「辛くなったら、トーマスからも解消を申し出て構わないわよ?」
「何で今、それを言うのさ!」
「え、平等かしらと思って」
「セレナ……」
ぐずぐず、ぐずぐず悩んで来たけれど。
前に進むための現状維持になったかなと思う。中身は変わっているけれど。
先はどうなるか分からないが、やるべきことはたくさんある。その先でまた、二人の道が重なる時が来たら、またその時に考えよう。
私らしく。
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