第19話 波乱の?パーティー

「トーマス=エルファイデ侯爵令息、ご婚約者、セレナ=エレクト侯爵令嬢のご入場!」



……毎回思うけれど、夜会のこれって、やらないとダメなのかしら……。視線が痛いのよ。


こっそり溜め息を吐いてしまう。


「セレナ、大丈夫?」


「大丈夫かと聞かれたら、大丈夫ではないわ」


溜め息に気付かれたらしい。つい、嫌味を言ってしまう。本当に嫌な人間になってしまいそう。


「……もう、本当に疲れたの。ここまで引っ張ってしまったけれど、ごめんなさい。やっぱりもう無理だと思う」


「セレナ……。ごめん、でも、俺はどうしてもセレナがいい」


「……勝手だわ……」


「うん、ごめん」


トーマスが泣き笑いのような顔で言い、二人の間に重苦しい空気が流れる。



その時、ファンファーレが鳴った。本日の主役の登場だ。会場にいる全員が前を向き、壇上に向かって頭を下げる。



「皆、頭を上げよ」


陛下の言葉に顔を上げる。


壇上の中心に両陛下、右隣にジーク様とローズ、左隣にハルト様とエマが立っている。



「先の式で発表したように、我が国に二人の聖女が誕生した!またとない僥倖だ!本日は大いに楽しんでくれ!」


陛下のご挨拶に皆が歓声を上げ、音楽が奏でられる。夜会のスタートだ。


今回は陛下たちではなく、主役の二組でのファーストダンス。ジーク様もハルト様も、ローズとエマが愛おしくて仕方ないと表情に滲み出ている。その至福の光景に、皆が酔いしれる。



ローズとエマも輝くような笑顔で、ファーストダンスは終了した。周りからは拍手喝采が起きる。


そして二曲目が始まる。これからは、皆自由にパートナーと踊る。お目出度い席だ、誰も彼もが楽しそうにしている。



「セレナ様!」


ローズとジーク様が私達に声をかけてくれた。


「「ジークフリート殿下、ローズマリー様、本日はおめでとうございます」」


私はカーテシーを、トーマスは礼をする。


「ああ、ありがとう。…二人で出席なんだな」


ジーク様が確認のように言う。


「私が無理を申し上げて、ご一緒していただいております」


「うん。二人とも、私達の大切な幼馴染みだからね。幸せになるように祈っているよ」


「努めます」


「……ありがとうございます」



「セレナ様」


ローズがきゅっと私の手を握り、耳元で囁く。


「私はセレナの味方だから。どうか自分の心に自由にね。今日は側に居られないから、エマと私からの伝言」


「ローズ……」


自分の幸せも、再確認する。一人じゃないって、すごい。


「では、またな。楽しんで」


ジーク様がそう言って、二人は別の所へ挨拶に向かう。


忙しいだろうに、わたしの為に来てくれたのだ。感謝しかない。少しの間、二人の後ろ姿を見つめていた。





「セレナ、少し向こ…」


「トーマス様!」


トーマスが何かを言いかけた時、女性が駆け寄り、彼を呼ぶ。ああ、いつものスーザン様だ。後ろにはコレット様もいるし、他の女性もいる。


「……スーザン嬢。何か?」


「何か、ではありませんわ!いつものようにお迎えに上がったのです」


私に勝ち誇ったような顔をしながら、彼女は話す。周りの女性たちも、クスクスと笑いながら見ている。


「さ、参りましょう」


スーザン様がトーマスに手を伸ばす。


「……行かないよ?」


トーマスがそっと彼女の手を躱して言った。


「えっ?」


スーザン様も周りの女性も、虚を突かれたような顔をする。


「この前、きちんと言ったよね?もう近付かないでくれって」


「で、でもそれは学園だけの話だと……お忙しいから…」


周りの女性達も、それぞれ頷いている。


「一言もそんなことは言っていない。……君達とは友人として親しくしてもらっていたけれど、それ以上を望むようなら、もう関わらないで欲しい。……全員だ」


トーマスが今までになく、厳しい顔で言う。


「な、にを…っ、だって、私を女性らしいって」


「うん、ご自分でもアピールしていたよね?長所だと思うよ」


「わ、たくしっ、朗らかで…っ」


「コレット嬢も、それが長所だよね」


周りの女性も次々と騒ぎ始める。


「……でも私は一度も、君達がセレナより優れていると言った覚えはないよ?」


そしてトーマスのこの一言で、場がシン、と凍り付く。



「勘違いをさせたのなら申し訳ない。そもそも、私が付き合いを広めようと思ったのは、セレナの為だったんだ。人脈作りの為に。自分が愚かで、途中から道を誤ったらしい。……道を正したいと思う。セレナを手離したくないんだ」


「そ、んな、勝手……!」


「はい、そこまで~!せっかくの美人が台無しだよ?スーザン嬢」


エトルが女性達と私達の間に入って来て、笑顔でスーザン様に話しかける。


「!エトル様!」


驚いているが、心なしか嬉しそうにも見える。


「もういいじゃない、トーマスはつまらない奴になったんだよ。こっちにおいで?まだ皆いて、楽しいよ」


「エトル様、でも」


「タイミングを逃すと次はないよ?君たち分かってる?二人は侯爵家だ。ここで済むうちが利口じゃない?」


なおも言い募ろうとするスーザン様に、エトルが言葉を被せる。


「!!……分かりましたわ」


スーザン様が折れると、他の方々も次々と黙る。


「良かった、じゃあ行こう。トーマス、セレナ、またね!」


「あ、ああ。……エトル、すまん」


エトルは女性達を引き連れて去って行った。



「ごめん、セレナ」


「今更……いつものことだわ」


「……本当にすまない。…少し、バルコニーで話をしないか」


この場でトーマスの手は叩けない。近くにいた人達の視線も感じるし、せっかくエトルが鎮めてくれた騒ぎを再現する訳にもいかない。



「わかったわ」



きちんと、話をしましょう。

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