第17話 突然の告白
それから10日程経って。
私は今、エトルに呼び出されて、放課後の中庭にいる。
トーマスとは、ほぼ、あれきりだ。学園だとルピナス組で集まっていることが多いので、声を掛けて来づらいのだろう。それにあれ以来、四人とも生徒会の仕事を真摯に務めていて(当たり前なのだけれど)、多忙でもあるのだ。正直、助かっている。
さて、そしてなぜ私はエトルに呼ばれたのか。リーゼに言いにくい頼み事でもあるのか。二人の婚約解消は成立したはず。……まさか、エトルまでリーゼとやり直したいとか言うんじゃないでしょうね?
「セレナ。呼び立てておいて、待たせてすまない」
「大丈夫よ。生徒会、忙しそうね?」
「まあね、当然のことだけど。今までがダメ過ぎたろ、俺ら」
「自覚があるのね」
「セレナもキツイな」
苦笑しながらも、何故か嬉しそうなエトル。刹那、泣きそうな顔で微笑み、次の瞬間には真剣な顔になる。
「実は俺、セレナに、聞いて欲しいことがあって」
不思議な緊張感が場を包む。
「……私に?」
「うん」
真っ直ぐに見つめられる。
「……俺、どうやらセレナのことが好きだったらしい」
言葉は耳に入って来たが、心が咀嚼するまでに少し時間を要した。
「……ごめん、少し、意味がわからない」
「だよね」
「だよねって……しかも、らしい、とか……」
「うん、ごめん。自覚したのが、ついこの間でさあ。しかも、リーゼに指摘されてっていう。情けない事に、言われて気付いた。そうだったんだ」
「ちょっと、リーゼにって、何で?」
「……この間、話かけただろ。あの時さ」
ああ、先日の自習時間の時だ。確か、あの直後に二人の婚約解消が正式に決まった。
「え、まさか、私の」
「違う、セレナのせいじゃない。全部俺が悪い。……甘えてしまうし、セレナにも負担をかけてしまうと思うけど、前に進む為に聞いて欲しい」
いつになく真剣な様子のエトルに、つい頷いてしまう。
「……って、カッコつけたけど、どこから……。まあ、最初からか。振り返ると俺、最初からセレナが好きだったんだ」
穏やかに話始めるエトル。私は黙って聞く事にする。
「子ども心に、トーマスか俺が婚約者になれるのかなって思ってた。……俺は、優しくて真っ直ぐなセレナがお嫁さんになってくれたら嬉しいな、って思っていたんだ。なのに、リーゼが光魔法が使えるのが分かって。急に婚約者になって。リーゼをきちんと見る事もせずに、親に勝手に決められた婚約者を認めていなかった。自分だけが被害者だと思っていたんだ。……リーゼだって同じだったのに」
しょうもない奴だよなあ、と、続けて。
「……ずっと一緒にいられたらと、無意識に思っていたセレナがトーマスのものになったのが悔しくて。……最初にトーマスにちょっかいを出したのは俺なんだよ」
エトルは、トーマスの私への少しの劣等感に触れて、下らない競争に巻き込んだと。
「ごめん。きっと俺、二人が揉めたらセレナが俺を見てくれるかなとか、周りに人が増えればすごいと思ってもらえるかなとかを考えてた。……そんなことで、セレナたちに迷惑をかけた……本当にごめん」
頭を下げるエトル。……それにしても、どいつもこいつも、ですわね。
「……謝罪は受け取るわ、エトル。でも、許す許さないに関しては、気持ちが追い付かないの」
「……うん」
「それに……リーゼは、いつから、その」
「ん?……ああ、最初から気づいていたらしいよ」
「最初から?!」
「うん、周りも、ましてや本人も気づいていないことにも気づいていたって」
「……リーゼ……どれだけ傷つけて……」
「開き直る訳じゃないけど、リーゼはセレナにどうこうは無さそうだったよ」
さらっと言われる。そんなの、分からないじゃない。腹立たしいわ。
「貴方がそれを言うの?」
「そうなんだけどね。物凄く割り切られていてさ」
今日のエトルは、ずっと苦笑しているようだ。
「割り切り……」
「そう。結婚するからには信頼関係は築きたいくらいの情はあったけど、エマ嬢に選ばれたから、もう俺はいらないって」
「あ、それは……その、何て言うか……」
「フォローしようとしなくていいよ。セレナのそういう所、優しくて好きだけどさ」
「!」
「……ダメでも最初から、きちんと自分の気持ちに向き合えば良かったんだって叱られたよ。ラインハルト様を見習えと」
「リーゼらしい」
その時のリーゼの顔が想像できる。
「そうか、やっぱり彼女らしいのか」
優しく笑うエトル。そして、私の視線に気づいて続ける。
「本当にダメだよね、俺。リーゼの面白い所、しっかりしてる所、何だかんだでも俺を見ていてくれた所……無くしてから気づいたよ」
「エトル……リーゼには」
「うん、後の祭りかなって言ったら、『そうですね』って」
き、厳しい、けど……。
「……今まで、積み重ねて来たものがないのだから、当然だよ。もう、自由を返してあげないとね」
うん、そう……よね。
「それで、一方的で申し訳ないけど、セレナに懺悔を聞いてもらおうと!最後まで勝手で謝るしか出来ないのだけれど。好きだったよ、セレナ。……好きだったのに、傷つけてごめん」
「……それは、トーマスのこと、よね?」
「……うん。俺が振り回したから」
「謝罪は、先ほど受け取ったわ。……そしてきっかけは何であれ、自分で決めて動いたのはトーマスよ。嫌ならやらなければいい話だもの。エトルのせいだけではないわ」
「……セレナも厳しいなあ」
「当然よ。……でも、エトルの気持ちも、ありがとう」
「曲がった初恋で、すみませんでした」
「何よ、それ」
クスッとしてしまう。
「セレナは……トーマスが好きだったろう?トーマスだって、セレナを」
「……所詮、私たちも政略結婚よ。余り物同士だったでしょう」
「セレナ。……何の慰めにもならないだろうけれど……トーマスは特定の誰かに手を出したりはしていないよ」
「……」
「言い方は悪いが、ゲーム感覚だったよ。どちらがたくさん口説けるか、みたいな。……うん、口に出すと最低だな」
「……出さなくても最低だわ。ゲームって……」
「そうだけどさ、寄って来る奴等も、同じ穴の狢だろ?……って、自分で言ってて虚しくなってきた……」
「まったくもう!!昔から言ってるでしょ、考えてから、行動!」
「うん、肝に命じます」
ニカッと笑ったその顔は、懐かしい幼馴染みの顔で。
「……もう」
「これからも、幼馴染みでいてもらえるかな」
「幼馴染みではなくなる事なんて、ないでしょう?」
「……ありがとう、セレナ」
トーマスにも謝らなきゃなと言い残して、エトルは去って行った。
本当に、人の心は儘ならない。
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