第16話 男って?
後半部分に神視点入ります。
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トーマスが帰った後も、私は俯いていた。
「セレナ、大丈夫かい?」
お父様が、そっと声を掛けてくれる。
「はい。……すみません、お恥ずかしいところを……」
よく考えたら、父の前で何てことを。思い返すと、ますます顔を上げにくい。
「いや……。少々驚いたが。セレナは怒るかもしれないが、彼の気持ちも解らなくもないな」
「え?!お父様はトーマスの味方なんですの?」
思わず顔を上げる。
父は困り顔で微笑んでいた。
「味方はしない。彼のしたことは、親としても許し難い。難いが……同じ男として見るとね。大なり小なり、似たような事を考えるというか、やらかすというかな」
「……お父様も浮気をなさったの?」
訝しんで聞く。
「まさか!そんな目で見ないでおくれ。そうじゃなくてだな、見栄を張ってしまうというのかな」
私がよほど懐疑的な目をしていたのか、お父様は慌てて弁解しながら続ける。
「……うん、だからと言って、何をしても良いわけではないし、セレナを深く傷つけたのは事実だ。……だが、彼なりにセレナに追い付きたかったのだろう。確かに、方向がおかしいが」
「私、トーマスを置いたままにした記憶はございませんわ」
「うん。そうだね。セレナは悪くないよ。言い方は悪いが、彼が勝手に思い込んだだけだ。だが裏を返せば、それだけ、セレナ、彼はお前が輝いて見えていたのだろうよ。置いていかれると思うくらいには」
「……お父様は、やっぱりトーマスの味方ね」
反応し難くて、フイと横を向く。
「お父様はセレナの味方だよ。また会うも会わないも、婚約を続けるも解消も、セレナが自分で決めて構わない」
「……ですから、解消を」
「……本当に?」
「……お父様、いじわるだわ」
「おや、本当に嫌われてしまうかな。でも、二人が仲が良かったのも見てきているからね」
「…………」
「もう少し、考えてごらん。じゃあ、私は部屋に戻るよ」
「……はい」
子どもの頃のように私の頭を撫でて、父は客間を出ていった。
「皆、勝手だわ」
残された私は、一人呟く。
私はもう、踏ん切りを着けたのだ。今更蒸し返さないでほしい。
「許せる、はずがないのよ」
ルピナスシリーズの話を進めようと、父の休みに合わせて帰って来ていたけれど、気を削がれた。
「早めに寮に帰ることにしようかしら」
そうしよう。何だか、疲れたわ。
◇◇◇
「あなた。どうでした?トーマス君」
「……ああ」
こちら、セレナパパ自室。戻って来た所に、セレナママが登場。
「昔を思い出してな。つい、彼のフォローしてしまったよ」
「まあ」
コロコロと笑うママ。パパは苦笑いだ。
「ご自分も、いろいろとありましたものね?」
「う、浮気とかはないだろう!」
「そうですね、チヤホヤされていただけですわよね」
「……だから、すまんて」
どうやら娘には言いにくい事が、いろいろとあったご様子。
「でも、いい時代になって参りましたね。女が自分の人生を決められるなど、なかなかございませんでしたから。……セレナには、悔いのないように歩んで欲しいですわ」
「えっ、テ、テレーゼは後悔しているのかい?」
セレナママは、テレーゼさんです。
パパの言葉にたおやかに微笑む。
「今は大丈夫です」
にっこりとそう宣われ、背筋を伸ばすパパ。
「でもね…。現場を見てしまうとね…なかなかなんですのよ」
パパは失念していた。やった方とやられた方の気持ちの差を。冷や汗が背中を伝う。
パパにとっては、少し長い沈黙が続く。
「ともかく、あとは二人次第ですわね?」
「そ、そうだな」
パンと軽く手を叩きながら、変わらぬ微笑みで言うママに、パパもぎこちなく答える。
もう30年近く経つからと、迂闊に昔話を出してしまった自分を棚に上げ、トーマスのフォローなんかしなきゃ良かったと後悔するパパであった。
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