第14話 トーマスの決意

それは、唐突に始まった。



「エマ嬢。私は君が好きだよ。私の唯一だと思っている。……婚約者にしたいのは、国の為だとでも思っていた?」


「……!だっ、だって、その……」


「ともかく私は、努力家で、家族思いで、友達思いで優しくて、しっかりしているのに時々やらかすエマ嬢が……可愛くて仕方ない。エマ嬢が聖女でも聖女じゃなくても、側にいて欲しいと願っているよ。……誰にも渡したくないんだ。愛している」


「!!っ、……で…」


「一生共に歩きたい。……改めて、私と婚約をしていただけますか?」


「……っ、はい」



ラインハルト殿下とエマ嬢の、教室を舞台にした一幕。



……俺は、人前でなんて無理だけど、こうやって素直に真っ直ぐに、きちんと伝えれば良かったんだな。



セレナの、自分の、子どもの頃の淡い気持ちだけに胡座をかいていた。


格好つけて、これだけ人望があるのだと、見せつけているような気分になっていた。



本当に何をしていたのだろう。誰を見ていたのだろう。自分が隣にいて欲しいと思っていたのは、誰だ。



盛り上がるクラスメート達の中で、セレナとローズマリーは涙ぐんでいる。……俺が、こんなで、嫌な思いをしているだろうに、友人の幸せを心から喜んでいる。


そう、ずっとそうだ。そういう女性だ。


俺への諫言も、俺の立場の心配と、周りの人への配慮で。俺は、そんな完璧な彼女が何だか悔しくて。



振り向いて欲しかったんだ。



あれだけ、見ていて貰えたのに。ますます、自分の愚かさに気づく。



……俺が離れれば、セレナには婚約希望者が殺到するだろう。他の奴がセレナの隣に?……自分は棚に上げてしまうが、嫌だ、絶対に嫌だ。



だったらどうする?……足掻くしかない。



自分勝手な言い分だと怒られるだろう。……拒否をされても否めないけど、もう、すがる!!



セレナからしたら迷惑であるだろう決意を、俺は固めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る