第9話 明日へのお茶会1

「セレナ嬢」


選択授業が終了の休み時間に、ハルト様が声を掛けて来た。エマ嬢とは違う選択授業なのをご存知なのね。


「……殿下。皆さん、先に戻っていらして」


共に移動していた友人に声を掛ける。



「ごめんね、急に。……いろいろ。放課後は食堂のサロンを予約したから。エマ嬢にも伝えてくれる?」


「…承知致しました」


「……思うところはいろいろあると思うけど。悪いようにはならないはずだよ、セレナ嬢」


あら、それは私への心配り?それともエマ様への心配?


「ふふ。変な心配はしておりませんわ。……驚いてはおりますが」


きっと両方なのでしょう。……比重はともかくとして。



「あー、セレナ嬢にもバレる?」


ハルト様の顔に、少し赤みが差す。ふふ、初めて見る表情ね。


「これでも、幼馴染みですから」


「まいったな。でも、セレナ嬢とエマ嬢が気が合いそうと思ったからだからね?……まあ、エマ嬢は素直過ぎる所が心配だけど……」


「あら、そうなのですか?」


はっきりとした方ではあるけれど、完璧な聖女、淑女だと思っているけれど。



「ちょっとね」「…そこも、いいんだけど」後半はもごもごと誤魔化すハルト様。聞こえていないふりをしつつ、生温い笑顔をお返しした。


「ふふ、ではまた後程に。よろしくお願い致しますわ」


「うん、よろしく」





放課後になり、エマ様と共に、ハルト様が予約をしてくださっていた食堂奥のサロンに行く。



学園付の侍女がお茶を入れ、セッティングしてくれる。


そして、「後は自分たちで」とのハルト様の言に、お辞儀をして部屋を出た。



……そして私、何だかんだ申しましても、緊張しております。情けないですわね。エマ様も、表情が固く見える。



そんな雰囲気に苦笑いしつつ、ハルト様が私達にお茶を勧め、更に話を振ってきた。



「さて、このままでも仕方ないし。エマ嬢はセレナ嬢にお願いがあるんだよね?…セレナ嬢だけでなく、リーゼ嬢、ソフィア嬢、シャロン嬢にもか」


「……私達に?」


思わず、素でキョトンとしてしまう。私達に、何か物申したいのでしょうか。その気持ちも分かります。でも、エマ様はあまり、そのような方では無さそうな……。


などと、つらつら考えていた私に。



「はい。実は私、考えていることがございます」



エマ様はこちらを真っ直ぐに見つめ、夢物語のような素敵な提案をしてきたのだった。それは、グリーク王国をますます発展させるであろう、数々の事業計画で。



そして。


「……エマ様が素晴らしい計画をお持ちなのは解りました。それで、私達に頼みというのは…?」


「はい。皆さんの魔法の力をお借りしたくて」


「……魔法?」


「はい。セレナ様の水と土、リーゼ様の光と水、ソフィア様の火と風、シャロン様の火と水を。…ある意味では地味な作業かも知れませんが…魔法を融合しながらの農地改良、薬の改良などにご協力いだけたら心強いなと……」


「地味とは思いませんわ。とても大切な作業よ。…でもなぜ、私達に?こう言っては何ですが、特に珍しい魔力ではありませんわ。…リーゼ様の光魔法は、希少ではありますが…エマ様ご自身が素晴らしいですし」


そう、魔力量はある。けれど、珍しい能力ではない。



「うーん、ええと…珍しさではなく……説明は難しいのですが、皆さんの魔力のが好きなんですよね」


「……質?」


初めて聞く事だ。


「はい。皆さんとても真っ直ぐで、澄んだ魔力です!とても気持ちのいい魔力なんです。なかなかいらっしゃらないのですよ!あっ、そういった意味では珍しいと言えます!それが、四人も…!魔法の融合もお上手だし、本当に婚約者が勿体ないと……」



熱心にご自分の思いを説明していたエマ様が、……いわゆる、口を滑らせたわね。


ハルト様が笑いを堪えてるわ。慌てているエマ様は気づいていないけれど。


魔力のかあ。初めて聞くけれど、きっと聖女様だから分かるのね。真っ直ぐで、……澄んでいると……とても、とても嬉しい。



ああ、私は自分が必要だと。貴女がいいのだと、きっと、言われたかったのだ。……エマ様も勿体ないと、思ってくれているのね。



「……も、申し訳ありません!」



物思いに耽ってしまった私の沈黙に、エマ様が慌てて頭を下げる。いけない、いけない。心配させてしまった。



「ふっ、ふふっ!本当に素直な方なのね、エマ様!」



嬉しくて、少しはしたないけれど、笑いながら答える。



「ハルト様の仰る通りの方!あのバカ四人が気に入るのも分かるわ。奴等にはそれこそ勿体ない方ですけれど」



あら、エマ様が少し呆然としているわ。これも珍しいわね。



「セレナ嬢、エマ嬢が大混乱だよ」


ハルト様が含み笑いをしながら、言う。


「あら、ごめんなさい、エマ様。先程の事は気になさらないで?やっぱり私って、トーマス《あのバカ》には勿体ないと思っていただけますわよねぇ?」


本当に、そうですわよね?!


ブンブンと、本気で頷いて見える、エマ様。



「はっ、またスミマセン!」


また慌てる。ああ、淑女ではないエマ様も愛らしい。



「ふふふっ!もう本当に素直な方!今回の件で落ち着くかは分かりかねますが、まあ、最後にエマ様に舞い上がったのは誉めて差し上げようと思うわ。…でも、エマ様はご迷惑でしたよね?ごめんなさい」



こんなに素直で可愛い方を困らせていたのね。


まず、改めて謝罪しなければ。

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