第8話 もう一人の幼馴染み

突然ですが、グリーク王国第二王子のラインハルト=グリーク殿下も、畏れながら私達の幼馴染みでございます。



殿下は私達が10歳になる頃に、会に参加をし始めました。



……その頃から、まあ……自由な方で。でも、時々鋭くて食えない方でもありました。のらくらされながらも、頭の切れる人です。当時から殿下にももちろん、たくさんの女性が寄って来られておりましたが、全て、氷の笑顔で躱されてました。



「はあ……兄上たちが仲良し過ぎるからさあ。溢れた奴らが集まってきて面倒だよね?」


「ハルト様、そんな言い方は」


いつかのパーティーの際に、そんなことを言い出す殿下を、思わず諌める私。


「ふふっ、セレナも被害を受けてるようなものなのに、優しいね。セレナも姉さんみたいだ」


「嬉しい言葉ですけれど、私は……」


ローズ様のようには、なれそうもない。


そう、俯く私に。


「ねぇ、本当にこのままでいいの?みんな、彼奴らには勿体ないと思うけど」


「…………仕方がないです……」


「……そっか。まあ、彼らも


と、楽しそうな笑顔で宣った。まだ、エマ様と会う前の頃のことでした。




ーーーそして、今。



なぜ、そんなことを思い出したのかと申しますと。



「私がエマ嬢をエスコートして来たのは、エマ嬢を婚約者にするために口説いているからだよ?…問題はないと思うけど?」



こんな事が起こっているからでございます。



今朝はエマ様たちは四人で王家の馬車で登校してきた。


先週末に聖女としてのお仕事を王家から、とお話していたことを考えると、何かがあったのだろう。……エマ様はまだともかく、ジーク様とローズ様には間違いなく確定的な慶事があったと窺える。



それをクラス中が感じる中。



トーマス。貴方は何をしているの。これ以上、失望させないで。他の三人も、いつもトーマスを担ぎ上げて。……腹が立つのよ!!



ハルト様の氷の微笑、久し振りに拝見致しました。……とか、思考を飛ばしている場合ではないわね。



でもこれで、どこか気持ちに踏ん切りが着いた気がするわ。



「そこまでになさって。トーマス様」



私も、けじめをつける一歩よ。



「ジークフリート王太子殿下、ラインハルト殿下、イベレスト公爵令嬢、……婚約者が申し訳ございません」


「いや、セレナ嬢には非はないよ。……彼らも自分たちで自覚するべきだ」


ジーク様がフォローしてくれる。でも。


「ありがとう存じます。しかし、私共の力不足で諌め切れず……エマ様にもご心労をかけております、重ねて申し訳ございません」


これは、彼らの婚約者である、私達四人の罪。きっと、皆も聖女である彼女にどこか甘えていた。


「そんな、勿体無いお言葉です、エレクト侯爵令嬢。……私こそ、上手く立ち回れず…ご心労を。申し訳ございません」


私が頭を下げると、エマ様もそう言って下げてくる。優しい人よね。



「……悪くない二人が謝り合うことはないよねぇ」


ハルト様の言葉に、エマ様と私は顔を上げる。



「だってそうだよね?」


と言いながら、四人を見渡す。うん、その微笑、いつ見ても迫力があります、ハルト様。



彼らと言えば、バツの悪そうな顔をしている。



「……ハルト、気持ちは分かるがそこまでにしておけ。そろそろホームルームの時間だ。皆に迷惑がかかる」


ジーク様の言葉に、ハルト様は口をつぐむ。



「トーマス、エトル、アレン、ビル。……君達は確かに優秀だが…学生だからと甘く見ていると、取り返しのつかないことにもなるぞ。……王家うちもそうだが、皆、優秀な弟君もいるのだろう?」



四人がビクッと背筋を伸ばす。



「当然に父君の後継になれるとは思わない方がいい。……ひとまず、これからひと月はローズも私も公務で体が空かない。生徒会の仕事を完璧にこなせ。今日はこれも伝えに来たのだ」



「「「「…承知致しました」」」」



さすがのジーク様の王太子然とした佇まいに、しっかりと腰を折る四人。久し振りに見る、令息らしさ。……本当に、こんな騒ぎになる前に気づいて欲しかったのに。




「行くぞ。ハルト」


「あ、ちょっと待って、兄上」


教室を出ようとするジーク様を、ハルト様が止める。


少し怪訝な顔をする、ジーク様。



「大丈夫、すぐ済む。……セレナ嬢」


「?はい」


えっ、私?!な、何かしら。


「今日の放課後、時間はあるかい?私とエマのお茶会に招待したいんだ」


「……空いております。承知致しました」


何のお話かしら。でも、改めてエマ様に謝罪する機会を得た。ありがたいですわ。


「ありがとう、詳しくはまた伝えるよ。エマ嬢もいいよね?」


「は、はい!」



「じゃあ二人共、後でね。お待たせ、兄上」


「ああ」


それぞれの教室に戻られる殿下二人。



ちょっと固まっていたクラスメート達も、ようやく息をついて自分の席に着き始める。



「…私も戻りますわ。エマ様、放課後宜しくお願い致します」


「こ、こちらこそ!」


……困らせてしまったのに、嫌そうな素振りも見せずに……笑顔が眩しいわ。



私が席に着くまで、トーマスが何か言いたそうにこちらを見ていたけれど、私は気づかない振りをして座った。

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