第7話 踏み出せない一歩
日に日に、四人のエマ様への執着がエスカレートしていく。
四人の家は有力貴族だ。まとめて諫言を言える者など、さすがのAクラスにもいない。……そう、私が言わなければ。
でも、エマ様はそんな四人を困惑しつつも、ふわふわと躱しているようにも見えていて。もう少し大丈夫かしらなんて、甘えてしまった。
「ですから、本当に無理なんです。先のお約束もできませんし…」
「えー、一日くらい、何とかなるでしょ」
ビルの悪い癖だ。甘えれば何とかなると思っている。
まったく靡かないエマ様に痺れを切らしたのか、四人とも今日のお昼休みはいつもよりしつこい。
……あ。エマ様が初めて困った顔をしている。いえ、泣きそうな顔をしている。
やってしまった。あの四人の事を言えない。私達も彼女の凛とした姿に甘えてしまっていた。
……嫌だったのだ、我慢していたのだ。きっと、聖女だからと。ごめんなさい。
止めなくては、と立ち上がったが、それよりも早くにレイチェル様とカリン様が動いていた。彼女たちも歯痒く思っていたのだろう。
「失礼致します。皆様、このままですとお昼を食べ損ねますわ。そろそろ私たちにエマを返していただけます?」
レイチェル様がそう言いながら、四人とエマ様の間に入り込む。カリン様もそれに続く。
「レイチェル嬢、しかしまだ……」エトルが言いかけたところで、
「これは何の騒ぎなのかしら?」
凛とした声が教室中に響く。未来の王妃、ローズマリー様だ。その顔には……冷笑が浮かんでいる。これ、ローズ様が怒っていらっしゃる時に出る微笑みです。
「トーマス、エトル、アレン、ビル。最近生徒会で見ないと思ったら、何をしているのかしら?」
ローズ様は笑顔だけれど、目の奥が笑っていない。
「「「「あ、いや、その……」」」」
四人揃って狼狽えて。情けないわ……。私もね。
「エマ様」
そんな四人は放置で、ローズ様がエマ様に声をかける。
「はっ、はい!」
「今日のお昼休みは、久しぶりに私に時間をいただけるかしら?レイチェル様、カリン様、よろしい?」
「「はい!」」
「ありがとう、ではエマ様、こちらへ」
颯爽と現れたローズ様に圧倒され、みんな少し茫然自失気味だ。さすがの次期王妃。……愛されていらっしゃると、自然と自信も滲み出るでしょうし。
本当に、ローズ様とジーク様は永遠の憧れだ。どうしたら、あんな風になれるのかしら。
……と、現実逃避をしたら駄目ね。私もけじめをつけなければ。……でも、どうしたらいいか分からない。このままでは駄目な事だけは分かるのだけれど。
「ごめんなさい、エマ様。少し時間を下さい」
私はそっと、一人言る。
昼休みが終わる頃、ローズ様と共に教室に戻ったエマ様は、すっかりいつも通りになっていた。私はほっと胸を撫で下ろす。
そして、エマ様は王城で聖女のお仕事があると説明をなさるローズ様。嘘ではないでしょうが、四人から離す目的もありそうよね。……正直、助かります。
人の手をお借りして申し訳ないけれど。
この間に、気持ちと周りを整えなくては。
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