終曲1
「お姉ちゃんはどこ」
あいつの突然の訪問。以前はいつものことだったけれど、多分あの頃はあのビルのことが気になっていたんだろう。遺言が公開されて、あいつにあのビルの権利が移ってからはここには来ていなかった。
「相続税は片付いたの」
「あなた、聞いてないの」
「詳しくは」
「どうにか片付いた。一応親父も、考えてはいたみたいだから」
「どう、借金背負った気分は」
「どうにかなるんじゃない」
「あなたはずっとここで居候してるの」
「とりあえずミサねえさんが帰ってくるまではね」
「働きなよ」
「働いてるって」僕はちょっとためらいながら答えた。
「お姉ちゃんはいつ帰ってくるの」
「しばらくは帰らないよ。奄美だから」
あいつの表情が固まった。
奄美にはお父さんが住んでいた家がある。ミサねえさんはこの家と奄美の家を相続した。主のいなくなった奄美の家は、やはり都会から移住してきた木村さんという人が見回りをしてくれているらしい。それでもやはり、人が住まなくなると家ってだんだん傷んでいく。都会やこの家に未練がなければ、この土地を売って奄美に移住するのも悪くない選択だ。ここは土地だけでも高値で売れるだろう。
「あんたも奄美に行くの」あいつは即座に状況を把握した様子。
奄美の家を処分するために、奄美に行ったとは思わなかったのだろうか。正直僕には、ミサねえさんがどうしようとしているのかよくわからなかった。この家にも愛着があるようだし、迷っているようには感じていたけれど。
「その時はここを出ていくしかないよね」
「もちろん奄美にもいかない」
お父さんとの約束は、この家に住むことだったし。
「でも、あんた親父に頼まれたんでしょう。ミサを頼むって」
よくそんなことを覚えていたなと思った。
「あの時はそういうことじゃなかったと思うよ」
「そういうことってどういうことよ」あいつが僕に詰め寄ってくる。
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