間奏曲 2
「お父さんは自分の病気のことわかってたのかな」
「感じてはいたと思います」
「でもはっきりとは言いませんでした」
久しぶりに「サマー・ホリデイ」に来ている。気になってはいたのだけれど「ウインター・ワイン」の時期には来れなかった。
「これからどうします」
「もう少し、あそこにいていいですか」
「いくらいていただいても、あたしはかまいません」
「あいつとは話しました」
「ハイ」ミサねえさんは意外なほど明るく返事をした。
僕はマスターが差し入れしてくれたロールケーキを少しだけ口に含んだ。
「美味しいですね。このロールケーキ」ミサねえさんが静かに言う。
僕はもう一口ロールケーキを口に運ぶ。夏が過ぎ去ろうとしていた。部屋の中にいるのに秋の風を感じた。
「あなたの好きにしていいんですよ。あの子もそう言っていました」
そう言われてもなあ。本当はまず、あいつと話すべきだったのかなあ。何となくあいつの考えていることはわかっている。
この姉妹、実は仲がいいのだ。お父さんが再婚しなければ。まあこのことは僕がどうこう言えることではないし、すでに過ぎ去ってしまったことだから。
「あたしは気にしてなかったの。親父が決めたことだし、知らない人でもなかったから」
「でもお姉ちゃんは違ってた」
「思い出とかなかったんだ」
「あたしはね。小さかったし、お姉ちゃんがお母さんみたいだったから」
「そんなに年離れてないのにね」
「あたしって、いつまでたっても子どもでしょ」そう言ってあいつが微笑む。
「お姉ちゃんはお母さんのこと覚えていたから」
あいつがどういうわけで家を出て行ったのかはよくわからない。表向きは高校卒業後、独立したということになっている。それ以降、実家とは音信不通状態だったらしいけど、ミサねえさんとは連絡を取っていたらしい。僕はこの家族がそういうことになっていることを、結婚のあいさつに行くまでわからなかった。あの時も僕たちを訪ねてきてくれたのはミサねえさんだったなあ。
「別に行かなくてもいいんだから」あいさつに行く前、あいつはいつになくイラだっていた。
「そうはいっても」
「いいじゃない」
結局のところ、僕は結婚する前からあいつのことをまるでわかっていなかった。そして、どうして僕を置いて出ていってしまったのかもよくわからない。
でも、それでよかったんだよね。
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