前奏曲14

「この部屋は初めてですか」

 キャンドルの灯りに照らされた部屋の中にミサねえさんの匂いが漂っている。

「どうして、ここにいるんですか」

 ミサねえさんは僕の質問には答えずに壁に寄りかかったまま。半分夢を見ているような表情。普段のミサねえさんとは違う。

「今日はどうでした」

 そういえば僕は今日何をしていたのだろう。同じような毎日を過ごしているから僕の記憶が曖昧になっているのだろうか。

「お父さんは罰が当たったの」

「お母さんもね」

 ミサねえさんはそう言って微笑む。

「ヒナは知らないのにね」

「でも覚えてるのね、感覚で」

 僕はお母さんのことは直接あいつからは聞いていない。

「あの子は時期が悪かったのよ」

「いちばん不安定な時期」

「そう」ミサねえさんは両手を前に出して目を閉じた。手のひらが僕に迫ってくるように思えた。ミサねえさんは誰と話してるのかな。

「あなた本当のお姉ちゃん知らないでしょう」

「まだひと月ぐらいだからね」

「もしかしたらずっとわからないかも」

「そうなの」

「知らない方がいいかもね」

 僕はあいつと話したときのことを思いだしている。

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