間奏曲1

「お疲れ様でした」

 喪服を着たミサねえさんは、普段よりキリリと締まり涼しげに見えた。もともと感情の見えにくい人ではあるけれど、悲しさを微塵も見せないミサねえさんの姿に冷たさを感じた人もいたと思う。

「お姉さんこそ大変でした」

 僕は次女の元夫という立場なので、実質的にはこの家の家族とは単なる関係者の一人。ただあの家に住まわせてもらっているということで、葬儀屋や会場とのやり取りなど裏方の仕事を手伝っていた。別に仕切っていたわけでもないのだが、最終的にはそんな感じになってしまった。何となく奇異に思った親戚の人もいたけれど、お父さんに拾ってもらった人ということで落ち着いたようだ。

「お兄さんお疲れ様でした」

 何故か元嫁の旦那は僕のことを「お兄さん」と呼ぶ。

「やめてくれよ、その呼び方。それでなくても何人かに誤解されているんだから」

「いいじゃないですか別に」

 元嫁が相変わらず僕のことを「あんた」呼ばわりするのが気に入らないのかな。あいつは自分の旦那のことはさん付けで呼んでいる。

「あんただって、あたしのことお前って呼ぶじゃない」

 それは事実だが僕は状況に応じて呼び方は変えているつもりだ。それに自分の旦那の前で言うことじゃないだろう。となりには親戚のおじさんだっているわけだし。

 そうじゃないの、日奈子さん。

 お父さんは奄美で亡くなった。最後のひと月はミサねえさんと過ごした。それほど苦しまずに眠るように亡くなったらしい。あいつは奄美には行かなかった。

 あいつにも意地があったのかな。

 関係を崩してしまったのはあいつの責任、ただすべてあいつが悪いわけでもない。意地の張り合いもあるし、二人の間に入っていける人もいなかった。もちろん僕も入りこめなかった一人なのだけれど。

「あなたも立ち会っていただけます」

 葬儀が終わり、片づけをしているときミサねえさんが僕にこう言った。

「父が遺言を残しているようなんです」

「僕みたいな部外者がいていいんですか」

「父の要望です」

「それに全くの部外者ではないのですから」

 数日後、弁護士の事務所で遺言書の内容が明かされるようだ。

「そう言えばあなた、よく親父のところに行ってたらしいじゃない」

「後で聞いたんだけど」

 あいつが僕の顔を覗き込むようにしてそう言った。たしかに関係改善ができないかと訪ねたことがあった。ただ、それはまだあいつと結婚しているころで、あいつが言うように何回も行っていたわけじゃない。

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