前奏曲11

 まるで家具のようなステレオセット。真ん中の扉を開けるとターンテーブルが見える。扉は両脇に収容されるようになっていて、その外側がスピーカー。アンプはターンテーブルの上に組み込まれている。電源を入れてみた。ランプが光らない。僕は裏側を見て電源コードを探す。折りたたんで束ねてあったが、伸ばすには一度このステレオを引き出さなければならないようだ。ステレオの上にもいろんなものが置いてあるので、大変な作業になりそう。伸ばせばコンセントまでは届くかな。

「少し休憩してから」そうつぶやいて

 僕は冷蔵庫からお茶のペットボトルを持ってきた。ステレオのとなりにある棚にはレコードが詰め込んである。あるのかな、ショスタコーヴィチ。ショスタコーヴィチが好きなんて、かなりのマニアだ。

「ステレオはどうでした」

「使えますか」

「カートリッジが」

「カートリッジって」

「簡単に言うと針かな」

「難しく言うと」

「針も含めた振動する部分」

「振動するの」

「レコードをかけると」

「その振動をアンプで増幅して音が出るんです」

「そうなの」

「でもラジオは音が出たので、アンプとスピーカーは大丈夫みたいです」

「ラジオ聴けるの」

「ザーっていう音だけ」

「電波が入りにくいようで」

「何となくわかります」

「合わせられないんですね」

「簡単に言うと」

「残念ですね」

 僕はステレオを引き出し、掃除をして、コードををのばしてプラグをコンセントに差し込んだ。プラグを束ねていた輪ゴムが劣化していて、ブチブチ切れてコードに張り付いてしまう。レコードを引き出してほこりを払いながらひとつずつチェック。

 ショスタコーヴィチのレコードはなかった。

 ステレオの上に置いてあった小物もきれいにして元の位置に戻した。

 針交換すればいけそうな気がする。チューナーは僕にはムリかな。ラジオは別の部屋に、これまたレトロなものがあったし。

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