前奏曲12
「また違ってたね」マスターが僕に言う。
「またっていうほどじゃないじゃないでしょう。連れてきたのは元姉だけだし」
「で、今度は誰なの」
「元嫁」
「ちゃんと別れたの。骨肉の争いってわけじゃなさそうだけど」
「別れたよ」
マスターはやけにニヤニヤしている。
「なかなかいい店ね。ちょっと遠いけど」
「近くに住んでいたんだ。リストラされた後」
「お姉さんと話したの」
「話がかみ合わなくて」
何となくわかるような気がした。
「あなたはいいよね」
「親父と合わなくて家飛び出したわけだから、別に何が欲しいってわけでもないんだけど」
あのビルが欲しいのかな。でも、それをミサねえさんに言ったところで無理だろう。ミサねえさんがお父さんに意見することはない。
「お姉さんはわかっていると思うよ」
「あんたこそわかってるの」
思惑を思惑で答える。あいつにもそんな僕のいい加減さはわかったようだ。
「あなたお姉ちゃんと結婚するの」
「するわけないじゃない」
「でも、親父に言われればするんじゃない」
あいつの言ったことはいいところをついている。もちろん、お父さんがそんなことを言うはずがないということが大前提なのだけれど。
「絶対断ってね。親父にそう言われても」
お前に指図される義理はない、なんて言えなかった。ただし、そうなったらそれは僕の問題であいつの問題じゃない。
「何で別れちゃったの」マスターがぼくに言う。
「あいつが出て行った」
「男」
「微妙」
「そうなんだ」
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