前奏曲10
「ヒナがお姉さんに用事があるみたいで最近よく来るんですよ」
「あら、何の用かしら」
ミサねえさんの少し驚いたような表情。メガネの奥の目。
「駅前のビルのことらしいですよ」
「そのことならあたしに聞いてもわからないわ。何が聞きたいのかしら」
「あのビルは父が管理しているので」
「でも、前に売ったって言ってませんでした」
「そんなこと言ったかしら」
ミサねえさんは少し考え込んでいた。
「あのビルは父のお友だちの不動産屋さんにお任せしているはずです」
「僕がここに住むこともあまりよく思ってないみたいですからね、あいつは」
「父もあの子とはあまりお話しないので」
その原因は僕との結婚だったって聞いたことがあるけれど。
「あなたが悪いのではないんですよ。あの子は子どもの頃から父と意見が合わなくて。母のこともあって」
おたがいに親を振り切って結婚したようなものだからね。
「親父はお姉ちゃんのことしか考えてないから」
「あたしがやることは全部ダメ」
「ずっと手元に置いておきたかったのに、お姉ちゃんの結婚には反対しなかった」
「でも、最終的にはお父さんの思い通りになったんだよね」
「どうかなあ。何で一緒に奄美に行かなかったんだろう」
「しかもあんたと一緒に住ませるなんて」
僕は鍵のことをあいつに聞いてみた。
「知ってるわけないじゃない。あたしここに来たことなかったし」
予想通りの答え。
「子どもの頃も」
「来たかもしれないけど、覚えてないよ」
それからあいつは少し考え込んでいた。そしてバックからケータイを取り出して部屋を出ていく。誰かから電話らしい。
「お姉ちゃん今日遅くなるみたい」
「人と会うんだって」
この家では話したくないのかな。僕もいるし。でも、二人で話すのは悪くないと僕は思った。
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