前奏曲9
「ねえ、この鍵はどこの鍵だかわりますか」
僕は昨日見つけた鍵についてミサねえさんに聞いてみた。
「私も子どもの頃に遊びに来ただけだからよくわからないの」
「そうですか」
「だいたいの鍵は父から預かったけど。どこにありました」
「お父さんも全部把握しているわけでもないみたいで」
「そこの引き出しです」僕はサイドボードの上に置いてある
アンティークな木製の小物入れを指した。
「素敵な箪笥ね」
「箪笥なんですか」
「小さいけど。角とか金属で補強してあるでしょう」
「たしかにそういう箪笥見たことありますね」
「他に何が入ってましたか」
「古い書類です。よくわからないけど証書みたいなものとか」
「まだ開けてない部屋とかあったかしら」
「迷路みたいな家ですからね」
ミサねえさんは気にしているようで、実はあまり気にしていない。もともとここに有るものにはあまり興味が無いようだ。かなり思い切って捨ててしまったようだし。もちろん僕はここに住んでいた人を知らないわけで、当然さほど興味があるわけでもないのだが、もしかするとミサねえさんよりも家のことが気にかかっているかもしれない。この鍵がこの家の部屋のものなのか、何かの箱か若しくはたんすの引き出しのものなのかはわからないけれど、ちょっとこの家を探検してみたくなる。そもそもこの鍵を見つけたのだってあの引き出しを開けてみたくなったからで。
「ちょっと探ってみていいですか」
スーパーに出勤する前にミサねえさんに聞いてみた。
「ご自由にどうぞ」といってミサねえさんが笑う。
「男の人ってそういうの好きよね」
「冒険とか、探検とか。子どもみたいに」
あいつはまたこの家にやって来ていた。
「来るならおねえさんがいるときに来たら」
「別にいいじゃない」
「ヒマなんだね」
「大きなお世話」
僕と違って今度の旦那は稼ぎがいいからね。
「お姉ちゃんはいつ休みなの」
「今のところ不定期かな。一応シフトは決まってるみたいだけど」
「でも毎日行ってるわけじゃないんでしょう」
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