第32話
憲兵団の牢屋に捕まっている時に、兵士たちがはニャしているのを聞いたのニャ。中層ぐらいに真っ赤な花を咲かせる巨大なモンスターが出現すると。ララフレシア・レッドプラント。突然現れては兵士たちを丸呑みにしたらしい、凶悪ニャ食人植物ニャ」
「なるほどな。その情報があったからフタバはあいつの奇襲に反応できたのか」
「ニャー、あとはまあこの耳のおかげっていうのもあるニャ。小さな地震みたいニャ音を拾ったからニャ。ただ、それ以上の情報はまったくニャい。弱点も能力も未知数ニャ」
「上等だ。行き当たりばったりの方が俺たちらしくていい。とりあえずはひたすら攻撃だ。わかったことがあったら報告する」
「了解ニャ!」
俺とフタバは二手にわかれて、戦闘を開始した。
俺はフタバから渡された短剣で食人植物の触手をめった切りにしていく。使うのは初めてだったが、思いの外使い勝手が良い。このまま一気に押し切ってやろうと思った時──
たった今切ったばかりの触手の切断面から、新しい触手が生えてきた。
そのまま俺の喉に巻き付くと、ギリギリと締め上げてくる。
「ッウッ! グッ!」
なんとか触手と首の間に指を差し込んで気道を確保し、酸素が脳に届いたところで、短剣で触手をぶった切る。
「クソ、こいつ、再生しやがった……」
しかも、俺の見間違いでなければ、植物全体に先ほどまでなかった赤いオーラが纏っている。
これは思った以上にまずい状況かもしれない。
俺が一度フタバの元へ向かうと、ちょうどフタバも新たに生えた触手に苦戦しているようだった。
「ハジメ! いいところに! こいつら切っても切っても触手が再生するニャ!」
「ああ、しかもそれだけじゃない。こいつ、時間が経てば経つほどに攻撃力をあげてきてやがる」
俺はララフレシアの茎の部分を指差す。
その周りを赤い膜のようなものが覆っている。
「あの赤いオーラは攻撃力アップのバフの証だ。あのオーラが強くなるごとに、触手を打ち付ける力や締め付ける力が増えていく」
俺は噛ませ犬スキルでバフのオーラについてはある程度把握していたので、敵の強化にいち早く気づくことができた。
「つまり、奴を倒すには、短期決戦しかない。一撃必殺のパワー系魔法スキルで焼き払うのが一番手っ取り早いんだろうけど……」
「でも、あてゃしたちはそんな魔法スキルはニャいし……短剣での攻撃は手数勝負で一撃ずつの攻撃力はニャい……」
「そうだな……」
どうする……こうして考えている間にもあのモンスターは成長を続けている。なんとかして突破口を見つけないと、このままではジリ貧だ。
俺はララフレシア・レッドプラントを睨みつけていると、あることに気がついた。
それは、奴の茎のところにある小さな窪みだった。
(確かあそこは俺がさっきフタバを助ける時に殴った部分……あそこだけ傷になって、再生していない……?)
俺は手を打ち鳴らした。
「わかったぞ! 奴の茎の部分。あそこが言うなれば奴の本体なんだ! あそこを叩けば、再生せずに倒せるかもしれない!」
だが問題なのはどうやって触手の森を切り抜けるかだ。あそこを切り進むには俺たちの攻撃力ではもう一押し足らない。
あともう一歩で、倒せるかもしれないのに。
そう思った時、フタバが食人植物向かって走り出した。
「ちょっと待てフタバ! 今無策で突っ込んでも触手に叩かれるだけだ!」
と言っている側から、鞭のような触手に弾き飛ばされたフタバが地面を転がる。
もう、何やってるんだ、と言いかけたところで、俺は自分の中から湧き上がる力に胸を震わせた。
フタバの方を見ると、彼女の周りにも赤いオーラが見て取れる。
「あてゃしのスキル“スナッチ”ニャ。相手の能力アップの状態を一時的に盗むことができる。対象者に手で触れないと発動できないのがたまに傷だけどニャ……」
「フタバ……」
体についた泥を落としながら、フタバが言う。
「これで、勝利のピースは揃ったニャ?」
俺は相棒がもぎ取ってきたチャンスに応えるように力強く頷いた。
「ああ、完璧だ。最高だよお前!」
ニッ! と笑って見せるフタバ。
これで、触手の森を抜けられる。
俺は思いついた作戦をフタバに伝えた。
「どうだ? 行けるか?」
「ニャー、あてゃし達なら余裕ニャ。テンポはそっちに合わせるから、お好きなタイミングでどうぞニャ」
「了解……行くぞ!」
俺たちは触手の森めがけて疾駆した。
フタバは敵を挟んで俺とは逆サイドに回り込む。
そこから俺たち二人は渦を描くようにして一気に、触手を切り刻みながら円の中心向かって進んで行く。
「オリャァァァァ!」
「ニャァァァァァ!」
俺たち二人が反対側から触手を伐採していき、奴が触手を再生させえう前に中心まで辿り着き、同時に本体である茎を攻撃する。
それが今回の作戦だった。
二人の息がぴったり合っていないと、敵を倒しきれなくて再生した触手に絡め取られて即死だ。
だがフタバは二つ返事でうなづいてくれた。
その信頼に、応えてみせる……!
「これで! ラスト!」
最後の一本の触手を切り終えたところで、フタバと茎の前で落ち合う。
そのタイミングの差は一秒とない。
ここで決める!
「「いっけぇぇぇぇ!!」」
三本の短剣がララフレシア・レッドプラントの茎を抉りとった。
直後、赤い花が断末魔の声を上げて崩れ落ちる。
俺たちもまた力を使い果たし、その場にへたり込んだ。
「ナイス、ガッツだ……」
「ニャハハ、お前もニャ……」
噛ませ犬と泥棒猫。
思った以上に俺たち二人はいいパートナーと言えるのかもしれなかった。
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