第7話
「ぐぶぉっ………」
敵ながらあっぱれというべきか、ギルバーグウルフルークの矢は見事に俺の腹のど真ん中を貫いた。
胃から大量の血液が逆流し、俺は溺れないように必死にそれを吐き出す。
次に感じたのは、痛みではなく熱さだった。自分の腹があった場所にマグマでも流れ込んだかのような燃えるような熱が溢れ出した。
最後に遅れて痛みが来た。腹痛なんてものではない。貫かれたのは腹だけのはずなのに、頭から足まで全身が凄まじい痛みに襲われ、一瞬気を失いそうになる。
そのうち、指先の感覚が薄くなっていく。
犬死にか……らしい最期かもしれないな……
そう思った時──
カエデの周りを凄まじい数のオーラが包み込むのが見えた。
攻撃力上昇。
防御力上昇。
素早さ上昇。
体力、魔力、限界突破。
エクストラスキル、解放。
運命力極限。
ようやく俺のユニークスキル、アンダードッグパラドクスが発動したのだ。
自己犠牲による味方の強化。まさか、これほどとは。
これでヤマトとマドカがあいつを倒してくれるだろう。
安心すると、なんだか意識が遠くなっていくようで、瞼がだんだん重くなっていったが。
だが、おい! という、気の強いスカウト女子の言葉に叩き起こされた。
「なに満足そうな顔してんだよ。死ぬのは早いぞ」
カエデが駆け寄ってきて、懐から体力回復用のポーションを取り出し、俺の腹にかけた。薄れゆく意識が引っ張り戻される。
え、それって飲むものじゃないの?
内服薬を塗っちゃダメなんじゃ……あ、でも空いた腹から胃に入るから一緒……なのか?
細かな理屈はわからないが、俺の体力はだんだんと回復していき、傷も塞がっていった。
果たして、俺の治療を終えたカエデはヤマトたちが向かった方に目配せした。
「ついてこいよ。ヤマトの予想が正しければ、いいものがみれるはずだ」
未だ痛む腹を抑えながらヨロヨロと通路を進んでいくと、ギルバーグウルフルークが倒れているのが見えた。
ヤマトがつけた切り傷の深さが、剣士の一撃の力強さを物語っている。
そしてそのすぐ横、巨大な狼の死体のそばの壁に、大きな隙間が空いているのが見えた。
ちょうど人が一人通れるくらいの広さで、通路からでは中の様子は伺えない。
ヤマトとマドカが話す声が聞こえる。どうやら中にいるようだ。
カエデの方を見ると、顎をクイっとあげて中に入るように促してくる。
いったい何があるというのだろうか。
俺は隙間に体を挟み込むと部屋の中に入った。
中は思った以上に広く、壁にかかった松明が薄暗い室内を照らしている。
そしてその中央には高く積み上げられた財宝が聳え立っていた。
金銀財宝や、見たこともないアイテム、身の丈ほど大きな大剣もある。
今だかつてこれほど景気がいい光景に出会ったことが俺の人生であっただろうか。いやない。
目の前の景色の凄さに半ば呆然としていると、後ろから思いきり肩を叩かれた。
振り向くと、パーティリーダーが満面の笑みを浮かべていた。
「ハジメのおかげでルークを倒すことができた! ありがとうな!」
そして室内に視線を移し、こう続けた。
「ギルバーグウルフルークはこのダンジョンの重要な場所を護る番人、という噂を時折り耳にしていたんだ。だから、奴の近くに宝物庫のようなものが隠されている可能性は非常に高かった。だがあの石弓の並外れた攻撃力ではまともに近づくこともできなかった。
お前の支援のおかげだ、ハジメ、本当にありがとう」
マドカとカエデも、親指をグッと突き立てて俺の功績を労ってくれる。
「宝の分配は後で決めるとして、ハジメ、こいつを受け取ってくれないか」
ヤマトは宝の山に突き刺さっていた、どデカい大剣を引き抜くと、地面に突き刺した。
柄の部分の装飾を見るだけでも相当なレアアイテムだと思うのだが、
「いや、俺はユニークスキルのせいで大剣のスキルは使えないらしいし、こんな強そうなアイテム、ヤマトが持っていた方がいいんじゃ……」
「いや、おれだって長剣スキルしか使えない。お前が持っていた方が、スキルを使う時に強そうにみえるし、いざって時は盾代わりにもなるし、なにかと便利だろ」
ほら、と促されるままに、俺は地面の大剣を引き抜いた。
ヤマトは「頼りにしてるぞ」と俺の肩を叩く。
剣はズシリと重たかったが、悪くない重さだった。
正直、この世界に来たばかりの俺はずっと不安で仕方なかった。
金もない、持ち物もない、知り合いも誰もいない世界で、ひとりぼっち。
唯一身についたものと言えば使えるかどうかもわからないスキルだけ。
そんな中、右も左もわからない俺をパーティに誘ってくれたのがヤマトたちだった。
今俺はようやくこのパーティで自分の居場所を築くことができたように思う。
やっと自分の実力を示すことができた。
この世界でも俺はやっていける。
そう思った時、
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
突如として、俺たちが入ってきたのと反対側の扉が開いた。照明が暗く、お宝にしか目がいってなかったが、この部屋の隠し扉は二つあったらしい。
そして扉の奥から姿を表したのは、先程倒した弓兵よりもさらに大きい、体長五メートル以上あるかというような巨大な狼だった。腕には同じく巨大な斧を担いでおり、怒りを露にして口から気炎を吐いている。
「ギルバーグウルフキング……」
マドカの口から溢れでた名称には、確かな恐怖がこもっていた。
キング。
それは言うまでもなく王を意味する言葉である。
ギルバーグウルフキングは頭に王冠こそないものの、今までのモンスターたちと違う、ボスとしての確かな威厳を備えていた。
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