第31話 仲間たち

 ライカはピクリとも動かず、荒波に揉まれ木の葉のように漂っていた。魔王龍は、ライカの死を確認しようと、巨体をくねらせながら海面近く迄ゆっくりと下りて来た。

 ライカは、“魔王大破”という強烈な光線を真面に受けたはずだが、身体に深い傷は無く、気絶しているだけだった。咄嗟に放った雷撃の壁が功を奏したようだ。

『しぶとい奴め、何かの技を使って身を護ったようだが、これまでだ。この牙で噛み砕いてくれる!』

 魔王龍がライカを一飲みにしようと、大きな口を開けたその時だった。

「ドドーン!!」

 魔王龍のこめかみ辺りに、黒い稲妻“魔雷破”が炸裂したのだ。

『ウグッ、だ、誰だ!』

 不意を食らった魔王龍は、仰け反りながらも辺りを見回す。 

「信長様、何ですその姿は、えらい変わり様ですのね。魔王の力を使えるのは、貴方と一体になっていた私しかいないでしょうに。今こそお父様の仇打たせてもらうわ!」

 それは、龍牙洞に残して来たはずの真麟だった。彼女の身体は、まだ戦える状態では無かったが、心配になって後を追って来たのだ。 

『真麟か、人間などに戻りおって……。お前の体力はまだ回復していないはずだ。少しばかり我が力を使えるからと言って、今のお前ごとき、この魔王龍の敵では無い。炎龍斎の元に送ってやる!』

 魔王龍は上空の真麟目掛けて上昇すると、大きな口を開けて彼女を飲み込もうとした。真麟は軽い身のこなしで避けたと同時に、魔雷破を魔王龍の口の中へ撃ち込んだ。

『グフッ!!』

 魔王龍は、口の中で魔雷破が炸裂した事で一瞬白目をむいたが、直ぐに体勢を立て直すと、長い尻尾を鞭のようにしならせて真麟を叩き落そうとした。不意を突かれた真麟は、それを躱す事が出来ず、観念して目を瞑った。

「ガシッ!!」

 何が起きたのかと真麟が目を開けると、魔王龍の尻尾に大刃の土龍が噛みついていたのだ。そして、真麟は誰かの逞しい腕に抱きしめられ、魔王龍から離されていった。

「氷馬!」

「そんな身体で無茶をするな。死んでしまうぞ!」

「皆の役に立ちたかったの。ごめんなさい……」

 真麟は氷馬の厚い胸の温もりを感じながら、甘えるような眼を彼に向けた。

「神一郎が皆を呼んでいる。俺達が時間稼ぎをするから、ライカ様を連れ帰ってくれ」

「分かったわ」

 真麟は、氷馬の腕からすり抜けると、海上に漂うライカを助け上げ、海岸の方へ戻っていった。

 真麟を見送った氷馬は、魔王龍との戦いで苦戦している大刃の加勢に駆けつけた。

「ガガッ!!」

 土龍の首に魔王龍の牙が突き刺さり、一気に噛み千切った。だが、大刃は魔王龍の口の中の土龍の身体の一部を槍のように変化させて巨大化させた。

『ウガッ!!』

 魔王龍の下顎から鼻筋にかけて土の槍が貫く。

『小賢しい。こんなもので儂を倒せるとでも思っているのか!』

 魔王龍は破壊光線を吐いて、口の中に突き刺さった土の槍を吹き飛ばし、大刃に向かっていった。

「大刃、逃げろ!」

 氷馬は、彼の最強奥義、大紅蓮の態勢に入っていた。大刃が離れたのを確認した氷馬は、紫色の光弾を魔王龍に放った。

 紫の玉が炸裂して、超冷気の紫の煙が辺りに拡散すると、流石の魔王龍も凍り付いてしまった。真っ白に凍りついた荒波、その上に魔王龍が「ズズーン!!」と地響きを立てて落下した。魔王龍は凍り付いて身動きできない状態だったが、不気味な赤い目は氷馬達に向けられていた。

「氷馬の大紅蓮を浴びても死なぬとは、当に化け物だな……」

「ああ、魔王龍が動き出すのも時間の問題だろう。今の内に皆の所に戻ろう」

「うむ!」


 氷馬と大刃は、海岸に下り立っていた風一族の元へと戻った。そこでは、意識を取り戻したライカが神一郎を気遣っていた。大刃、氷馬、真麟は、寝ている神一郎を取り囲むようにして座った。

「神一郎、話とは何だ?」

 氷馬が、傷の痛みに顔を顰めている神一郎に聞いた。

「私から話そう」

 神一郎の手を取りながら、ライカが話し出した。

「今、神一郎とも話したのだが、私の力だけでは魔王龍は倒せない。あの鱗の装甲を破壊する為には、雷王破では無理なのだ。そこで、皆の力を貸してほしいんだ」

「しかしライカ様、今、まともに動けるのは、私と氷馬だけですよ」

「大刃、そうじゃない。私の心の中に入って戦ってほしいんだ。五人の心を合わせれば、魔王龍を倒す力が出せるはずだ!」

「なるほど。それなら真麟や怪我をしている神一郎も戦えるな」

「ですが、ライカ様。それでは貴女の身体に負担が掛かり過ぎはしませんか?」

 真麟が、神妙な面持ちで言った。

「大丈夫だ。皆の支えがあれば疲れはしない」

 ライカは、一人一人に包み込むような眼差しを向けた。

 その時、

『オオオオオ――――ン!!』

 沖の方で不気味な咆哮が轟いた。魔王龍が氷を割って復活したのだ。

「魔王龍が呼んでいる。神一郎入れ!」

 ライカと手を繋ぎ合っていた神一郎の意識がフッと無くなった。続いてライカは、大刃の額に手を当てて、真麟と氷馬がライカの腕を取った瞬間、彼らは、その場に崩れるように倒れた。

「お父様、彼らを頼みます!」

「うむ。死んではならんぞ!」

 四人の抜け殻を白龍斎達に託し、ライカは大地を蹴って空へ舞い上がった。既に日は中天に煌々と昇っていた。

「みんな、私の意識まで上がって来てくれ」

(承知!)

 真麟と氷馬の思念に続いて、神一郎と大刃が、ライカの意識の中へ上がって来た。

「私が戦うから、皆は私に力を送ってほしい。この世界を救う為に魔王龍を断じて倒そうじゃないか!」

(オオッ!!)

 四人と一体になったライカは、魔王龍の待つ沖へと向かって行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る