第11話 犯罪組織

三日後。


 エルヴィンの名で、奴隷解放宣言が布告された。


 同時に、種族、年齢、性別、家柄、身分に関係なく、優秀な人材があれば登用して厚遇するという人材登用令も布告した。


 ヴァリス王国全土が震撼した。

 二千年の歴史で、奴隷制度を運用していたのだ。

 国民の動揺は大きかった。

 一番、動揺し、かつ憤激したのは貴族階級と、奴隷制度で利益をあげる商人達だった。


 奴隷制度を廃止し、あまつさえ、貴族に対する当てつけのように、


「家柄に関係なく、有能ならば登用して厚遇する」


 と国王が宣言したのだ。


 エルヴィンと宰相セシリアの行動は迅速を極めた。

 奴隷だった人間は即座に解放された。

 そして、土地と一時金が支給された。


 自作農が一挙に増える事となった。


 平民となり、自作農民となった元奴隷たちは、その多くがエルドラドに移住させられた。


 開墾、道路、橋などのインフラ造りなど仕事は多々あり、ヴァリス王国から賃金が支払われる事となった。


 邪竜リヴァイアサンの秘蔵していた金銀財宝がある為、エルヴィンに、金の心配はなかった。


 人身売買が禁止された商人達にも一定の恩賜金が支給された。

 平民には奴隷解放宣言は、衝撃的ではあっても、特に不利益でもないため批判は無かった。


 奴隷解放宣言から、1ヶ月後。

 執務室にエルヴィンと宰相セシリアの姿があった。


「さて、国内の様子は?」


 エルヴィンは自ら戸棚にある酒瓶を手に取り、銀杯に注いだ。

 最高級の葡萄酒である。良い匂いが部屋に漂う。

 宰相セシリアにもエルヴィンはワインを勧めたが、青髪の宰相は断った。


「陛下の予想通りです」


 宰相セシリアは無表情のまま答えた。やや嬉しそうなのが、エルヴィンには分かった。


 幼馴染みのエルヴィンにしか分からない程度だが、宰相セシリアにも表情の変化が少しだけあるのだ。


「平民には不満が殆どありません。ですが、一部の貴族と奴隷制度で利益をあげていた大商人や、犯罪者どもが陛下に憎悪を募らせております」

「助かる」


 エルヴィンは銀杯を掲げた。


「そいつらが、反乱を起こせば一網打尽にできる」


 エルヴィンは椅子に腰掛けるとワインを飲んだ。

 美味い。勝利の味わいがする。


「おそらく、一ヶ月以内に大規模な反乱が起きるでしょう」


 宰相セシリアが予想した。


「待ち遠しいな」


 エルヴィンは椅子にもたれ、長い足を組んだ。


「我がヴァリス王国は、国内に余分な貴族が多すぎる。そもそも貴族たちが領地内で裁判権や徴税権を持つのが問題なのだ」


 エルヴィンの指摘に、青髪の宰相が頷く。

 現在のヴァリス王国は、江戸時代と同じだ。

 日本という国家に、多くの藩が存在し、それぞれに独自の法律、税制、裁判がある。


 これでは国家としての中央集権体制が出来ず、国力が弱まる。


 ヴァリス王国内の貴族から、権益を剥奪し、エルヴィン一人の強大極まりない独裁制を確立する事が必要なのだ。


 それが出来てこそ、国家は強くなる。


「陛下、差し出がましいですが、進言がございます」


 宰相セシリアが言う。


「遠慮なく言え。お前と俺の仲だろう」


 エルヴィンと宰相セシリアは幼馴染みであり、友人でもあるのだ。

忌憚のない意見を述べる臣下は宝である。


「犯罪組織の連中は、早めに処分した方が良いかと存じます。既に人身売買の利益がなくなった為に、麻薬、強盗などで利益を補おうとする犯罪者どもが横行し、王都を含め、国内の治安が悪化しております」


 宰相セシリアの提案に、エルヴィンは頷いた。


「お前の進言はまさに千金に値する。犯罪者どもを駆除するとしよう」


 エルヴィンは、親衛隊長官ルイズ、宮廷警護隊総帥ソフィア、近衛騎士団団長グレーテル、そして、王国騎士団団長トリグラフを呼んだ。



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