第10話 奴隷解放宣言
エルヴィンと宰相セシリアは、奴隷制度の廃止と国内の悪党どもの粛清に取り組む事にした。
奴隷制度の廃止は、必須事項だった。
奴隷制度は実は能率が悪い。
農奴と呼ばれる存在が、中世ヨーロッパにも存在した。
そして、ほぼ同等の存在の人民が、ソ連邦にも存在した。
どちらも、あまりに非効率だった。
生産性が上がらないのだ。
「これについて理解しているものは、この世界には殆どいないだろうな」
エルヴィンは、ワインの入った銀杯を傾けた。
「おそらく皆無に等しいかと……。私でも陛下に説明して頂くまで気付きませんでした。陛下の神智に恐れ入るばかりでございます」
宰相セシリアが、感嘆の声音を出す。
「少し考えれば理解できるだろうがな。そもそも、自分のモノにならない農作業などをしても、ヤル気が出るわけがないのだ」
エルヴィンはワインを一口飲んだ。
奴隷制度が非効率である理由は単純明快である。
労働意欲が湧かないために、奴隷達が創意工夫を怠るのだ。
人は自分の育てた穀物や家畜が自分のモノとなり利益を産み出すと理解すれば、創意工夫をして、生産性を上げる。
勤労意欲が湧く。
だが、農奴がどれだけ働いても、結局は自分のモノにならず奪われるのだ。
これではヤル気が出るわけがない。
そして、創意工夫も生産性の向上もないため、最終的には国家全体の生産性も上がらない。
今ひとつは、奴隷制度があるために、有能な人材が働く場所を失い、国家の損失になる点だ。
貴族よりも、奴隷の方が優秀である場合がある。
だが、奴隷制度があると奴隷階級に生まれただけで差別されて、自分の能力を生かせない。
これは大きな損失である。
1,生産性の低下。
2,勤労意欲の低下。
3,優秀な人材が才能を発揮できない。
これら三点だけでも、奴隷制度が非合理的な産物である事が分かる。
「陛下のご高説を賜ると、己の思慮の無さ情けなくなります」
宰相セシリアは、人形のような美貌に羞恥の色を宿した。
「気にするな。これは知能の高さの問題ではない」
エルヴィンが、慰める。
俺も地球の知識と歴史を知らなければ気づけなかっただろう。
「近日中に奴隷制度の廃止を布告し、奴隷解放宣言を行う」
「はっ」
エルヴィンの宣言に宰相セシリアが背筋を伸ばす。
「奴隷解放宣言と同時に国内の不穏分子が一世に動き出すだろう。俺に敵対する貴族、犯罪組織を炙り出した後で殲滅する」
エルヴィンが、強い口調を出す。
「妙手です。敵対勢力は一つにまとめて根こそぎ刈り取るのが一番効率的ですから」
謀臣である宰相セシリアが言う。
二人は実務レベルでの討議に入った。
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