第2話 邪竜リヴァイアサン

 翌日の朝。

 エルヴィンは朝食の後、フローラ王妃に、


「ちょっと、邪竜リヴァイアサンを討伐しに行ってくる」


 と告げた。


「畏まりました、陛下~。私もお供して、お手伝い致しますわ」


 とフローラ王妃が、明るく言った。


「いや、お前は戦闘能力があまり高くない。一緒に来てもする事がないぞ?」

「そんな事はございませんわ~ 戦う陛下を応援したり、陛下が闘い終わった後、マッサージをして差し上げますわ~。私はけっこう役に立つ女ですのよ?」


 フローラが、両手の拳を握って力説する。


「気持ちは嬉しいが、今回はお留守番を頼む」


エルヴィンが、優しく諭す。


「左様ですか~。今度、機会があったら連れて行って下さいまし。腕によりをかけて、お弁当を作りますわ」


 フローラが、ほんわかした笑顔を浮かべた。


 邪竜退治をピクニック気分で楽しもうとする俺の妻は大物だ。 


お嬢様育ちだから、少し天然ボケが激しいのが心配だが……。

 


 



 





 

 エルヴィンが自室から出ると、二人のエルフの女性が敬礼した。

 二人とも、夢幻的なまでに美しかった。

 二人は親子であり、母と娘である。


 母親のエルフは、名をルイズ=ヘルベティアという。

 年齢は200歳を超えている。

 外見の年齢は、25歳ほど見える。

 銀髪金瞳で、長く美しい銀髪を後ろに流している。 

 形の良い大きな胸と細い腰。

 そして、足のラインは官能的だった。

 成熟した女性の色香が匂うように漂っている。

 顔立ちは完璧に整い、彫刻のように美しい。

  ルイズは、エルヴィンが赤子の時から、エルヴィンに仕えている。

 エルヴィンの剣術と戦闘術の師匠の一人である。

 類い希な剣才の持ち主で、現在、親衛隊長官として憲兵の長をしている。


 娘のエルフの名は、ソフィア=ヘルベティアという。

 年齢は13歳。

 白く長い髪をしており、顔立ちは幼いが美しい。

 胸は年相応だが、形が良い。

 腰が細く、足はすらりと綺麗で長い。

 ソフィアの瞳は閉じられていた。

 ソフィアは目が見えないのだ。

 生まれつき盲目で、現在も視力が一切無い。


 だが、圧倒的な剣才の持ち主で、純粋な剣士としての技量だけなら、エルヴィンに比肩する実力を持つ。


 視力がない部分を魔力探査と聴覚で補い、【天眼のソフィア】という異名を持つ。

 現在、宮廷警護隊総帥・兼・侍女として、エルヴィンの身辺の世話と警護をしている。

 ルイズが、エルヴィンに微笑を向けた。


「おはようございます、陛下。王妃陛下との初めての夜は如何でしたか?」


 ルイズが、あけすけに問う。


「相変わらず、遠慮がないな。お前は」 


エルヴィンが、肩をすくめる。


「『俺が国王となっても一切の遠慮なく諫言せよ』、と陛下が仰せられたからですわ」


ルイズが、微笑む。


「お前のは諫言ではなく、セクハラだ」


エルヴィンが歩き出す。


「確かにそうですわね。以後は、少しだけ慎みますの」


 ルイズが言う。


「へ、陛下、昨日も、申し上げましたが、……ご、結婚、あらためて……お、おめでとうございます……」


 ソフィアが、オドオドとした口調で言う。


 母親と違って控え目な少女なのだ。


「ありがとう。お前は母親に似ないまま大人になってくれよ」


エルヴィンが、肩越しにソフィアに顔をむける。

ソフィアは頬を染めた。


「まあ、酷い。初めての相手を務めた女にたいしてあんまりですわ」

 ルイズが、大袈裟に首を振る。

 エルヴィンが、14歳の時に初体験の相手をルイズが務めた。

 それは事実であり、「初めての相手」はルイズである。

 だが、それを堂々と娘と主君の前で言う所がルイズの度しがたい所だった。


「ルイズ、せめて娘の前でくらいは口を慎め」


 エルヴィンがたしなめる。

 ソフィアが、エルフ特有の尖った耳を真っ赤して俯いていた。


「かしこまりましたわ、陛下。ところで本日のご予定は?」


 ルイズが尋ねる。


「邪竜リヴァイアサンを討伐する」


 エルヴィンの宣言に、ルイズもソフィアも驚愕した。








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