第9話 『洗浄機の恋』ショ―トショ―ト

 地方の工業団地にフィルター工場がある。

 フィルターは製造され、洗浄して、検査に回される。


 洗浄室は工場の隅に位置した。有機溶剤を使用するためだ。作業員は防毒マスクの使用を義務づけられた。


 洗浄室には3台の洗浄機があった。入って右手に1台、左手に2台あった。一度に3本のフィルターの洗浄が出来た。


 1日に1000本、洗浄するのが常だった。


「この機械、スイッチを押した瞬間、ガクった動くんですよ」


「本当ですね。下の車の部分を固定しましょう」


「お願いします」


 車が動かないように固定されたが、スイッチを押した時の衝撃には耐えられなかった。


 もともと右手にもう1台あったのだが別のエリアに持って行かれた。入り口から手前の2台がペアで奥の2台がペアだった。


 僕は文系で機械のことなんかサッパリだったが仮説を立てた。


 今、洗浄機は三角関係にあるのではないか?ペアを失った洗浄機が右手の洗浄機に恋をしている。しかし恋されている洗浄機には昔からペアがいる。そのペアが本当に私がすきなのか行動で示せと言っているのではないか?それでスイッチを押されるたびに振動で

ペアに近づいているのではないか?


 移動距離は5㎝になった。もともと地面に固定されてなくてダクトは天井に埋め込まれていた。そのダクトはねじれてを起こしていた。その洗浄機は後1㍍でペアの洗浄機に触れることが出来る。


 設備の誰、彼さんが来ても直すことは出来なかった。僕の考えは当然内緒だ。変人扱いされてしまう。


 僕は一つ手段を考えた。仕事が終わったら移動続ける洗浄機とペアの洗浄機をヒモで繫いであげよう。後の1台にはかわいそうだが我慢してもらおう。


 僕はさっそく行った。ばれたときの言い訳はとてもじゃないが言えない。しかしそれ以外に方法はなかった。


 2台はヒモで結んであげることでひとつになったような気がしてしょうがなかった。


 次の日、移動する洗浄機は……


 移動した。


「なぜだ。いや、もともと可笑しな考えだったのか?」


 その日の稼働終了後、3台を見つめ、3台とも結んだ。ヒモは三角形を形作った。


「まさかね?!」


 次の日から移動する洗浄機はスイッチのたびに元の位置までバックを始めた。


                おわり


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