第6話 実業家としての顔と……
森社長は本店と3つの支店を持っていた。僕はそのひとつの支店の社員であった。
ある日、本店から連絡があり、うちの商品をB支店まで運んでくれとのことだった。初めて行く支店だったので楽しみだった。
「ナビではこの辺だけどな?B支店に連絡するか」
「すいません。A支店の者ですが場所がわからなくて……」
「ごめんなさいね。わかりずらいのよね!ちょっと外にでるわね」
「すいません」
「ここよ」
「あっ、はいはいわかりました」
トラックが1台通れるスペースしかない通路があって、奥に倉庫が見えた。住居の一部の倉庫に冷蔵庫をおいてトラックが1台あるだけの支店であった。
「ごめんなさいね。わかりずらいのよね」
「いいえ、もう覚えたので大丈夫です」
「すぐに帰らないといけないの?」
「いいえ、そんなことないですが……」
「上がっていってよ」
「はい、わかりました」
(この人が支店長になるのかな?)
「発注システムがわからなくて教えて…」
「いいですよ」
「いやね。本店に連絡するんだけど説明がわかりずらいのよね」
「わかりました。おじゃまします」
私は上がると仏壇の線香に火をつけ、お参りした。
「主人がやってたんだけど、病気になって出来なくなってね。私は繁華街でバ―をやっていたの。それやめて牛乳屋やってるの」
「そうでしたか。大変ですね。早速やりましょう」
「これどうするの?そうしたと思うけど?
あ~なるほどね。もう付いていけない」
「大丈夫ですよ。紙に書いておきますね。それとわからないことがあったら私にいつでも連絡してください」
「まあ、本当、ありがとう」
「いいえ。草場さん、こっちのパソコンは何に使っているのですか?」
「今は使ってないの。社長がこれ持ってきたから。毎月お金取られているの!あの社長は信用できない……」
「まあまあ、草場さん、このパソコンちょっと扱ってもいいですか?」
「いいわよ。あら、お茶も出さなくて」
「いや、お構いなく」
このパソコンは顧客情報が入っている。契約日、契約商品、解約日。これだけ判れば電話で営業できるぞ。宝物見つけた。草場さんに聞けばどうして辞めたのかもわかるかも知れない。それを解消すれば再契約できるかも。
それからB支店に通い、営業に回ることなく契約を1日1件取り続けた。取れた契約はその場で入力し、なるべく配達しやすいように契約を取り続けた。ラインから外れた契約は自分で配達し、草場さんの負担は極力抑えた。
うちの支店の連中が0契約が続くなか1契約獲得し続けことにより森社長から一目置かれるようになった。しかも楽をして……
森社長は台湾にも飲食店を持っていた。その店の売上を取りによく台湾に行っていた。いずれは日本にも出店するらしい。
森社長にとっては牛乳屋の支店は売買の対象でしかないことが少しづつわかってきていた。どのくらい儲かっているのかはわからない。形だけの柔らかい表情が崩れるまでそう時間は掛からなかった。
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