第3話

『男は結婚したら嫁がもう一度躾けなおす』


何かの本に書いてあったが、何だったかは忘れた。

正人さんは私の事を本当に“運命の人”だと思っていたみたいだ。

これから私の理想の家庭を創る為に一生懸命躾けなければ・・・

まずは家事や料理かな?

正人さんは料理や家事などは実家ではやった事ないって言ってたけど、これからはそういう訳には行かない。

夢を見ている今のうちになんとかしなくては・・・


私の企みが分からない様に自然に声をかけてみる。

「ねぇ正人さん、作り方教えるからご飯一緒に作ろうよ。」


「料理? 一度もやった事ないし無理だよ。」

渋る彼を私は必死に説得した。


「一つ一つ教えてあげるよ。ねッ?」

一緒に料理や家事をすることから始めて家事の分担を決めて行けばきっと上手くいく?


私はまず初めに正人さんに包丁の使い方を教えた。

なんとかりんごの皮くらいは剥けるようになってきたが、野菜の切り方はいつまで経っても不揃いのままだった。

まったくセンスのカケラもない残念な人だ。

でも、私は粘り強く教えていくつもりだ。

なんといってもこれからの私の生活がかかっているのだから・・・


正人さんに粘り強く数日間料理を教えたかいあって簡単な中華風のモノは作れる様になった。


そんな頃合いを見計らって私は話しだした。

「ねぇ正人さん? 私は月の初めから10日まで残業が続くんだ! 私が残業の時は簡単なモノでいいから夕御飯作っておいてよ! 」


「えッ、そんな急に? 俺に美味く作れるだろうか? 」


「大丈夫だよ! 料理名人だって最初から料理名人じゃないんだから・・・」


「そうだよね。瑠美さんに教えてもらったし、なんとかやってみるよ。」



そして私が最初の残業がある日を迎えた。

私は朝、シャワーを浴びて髪を洗うのが日課だ。

結婚したってそのそのルーティーンを崩すつもりなどない。

正人さんに朝食のパンを焼いてもらって、スープを温めたりコーヒーを入れてもらってる間に私はシャワーを浴びて髪を洗う。

そして私が髪を乾かして食卓に着いて一緒に朝食を食べる。

「いただきます。今日は残業だからヨロシクね! 」


正人さんは自信なさそうに頷く。

「あぁ頑張るよ。」


朝食を終えた私は食器をシンクに運んで「コレ洗っておいてね! 」って彼に食器洗いを頼んだ。


女性の朝は忙しい。

私は鏡の前に座って化粧を始めた。

今日は気合いを入れて20分くらいか?

正人さんは食器を洗いながらチラチラこちらを見ている。

「正人さんだって綺麗な奥さんの方がいいでしよう? 」


「そうだね~」


「今日も一日頑張ろうね! 」


正人さんは黙々と食器を洗っていた。

先に正人さんが洗い終えたので・・・


「正人さんお風呂も洗っておいて! 石鹸カスとか溜めちゃうとなかなか落ちないんだよね。軽く流すだけでいいから。」


正人さんは渋い顔をしたが、黙って頷き、お風呂を洗い出した。


洗濯はいつも夜に洗濯機をまわして部屋干しする。

少し生乾きの時があるので日中はベランダに出す様にしたい。

正人さんが風呂から出てきたので一緒に洗濯物をベランダに運んだ。


「ねぇ、帰って来たらちゃんと洗濯物も取り込んでね! 」


私はこうして正人さんへの躾を一つ一つ進めていく。

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