「じいさんはなぁ……、よく俺を飲みに誘ってくれたんだよ」
「じいさんはなぁ……、よく俺を飲みに誘ってくれたんだよ」
車の運転をしながら気晴らしのつもりでしょうか。ハンドルを握ったカールがそう私にお爺様との関係を語って聞かせてくれました。
もしかしたら、車内の沈黙に
屋敷を出て、私たちはカールの家に向かうことになりました。元々お喋りが上手ではないということもあって、私は車内ではずっと俯いていました。
背後に遠ざかって行くお爺様のお屋敷を見て、様々な感情が渦巻いてきたということもあります。
お陰で、車内はとても重苦しい空気に包まれてしまいました。
ですから、カールは自らの気晴らしというよりかは、どちらかと言えば私のためにそう会話の糸口を切り出したのかもしれません。
お爺様とカールとの関係は私も興味がありましたので、素直に顔を上げたものであります。
カールはバックミラー越しに私の顔を見ながら話しを続けました。
「金と時間だけはあるじいさんだったようだからな。飲みに行く度に自慢話ばかり聞かされていたよ。土地が百九十二ヶ所あるとかで……そん時は、嘘臭え話だって半信半疑だったけどよー。その一つ一つ、あそこがあーだこーだって、時間を掛けて聞かせてくれたよ。余程、酔ってたんだろうな。こちらが
カールが
「まー、俺としてはタダ酒にありつければ何でも良かったからよぉ。そんなじいさんの
話しながらカールの表情にどことなく影が落ちていました。淡々と語っているようでしたが、彼も内心ではお爺様の死を相当に哀しんでいることが伝わってきたものであります。
「……お爺様は……」と、私はふと思い出したことがあったので口を開きました。
「見込みのある若者を見付けたからお酒を飲みに行くのが楽しみだ……って言っていたわ。お酒に酔われて帰って来た時は、実に上機嫌だったわ……」
「そうか……じいさんがな……」
カールは私の言葉に目に涙を浮かべてホロリとしていました。
しかし──私にしてみれば、その後によりいっそう厳しい扱いを受けることになったので、とても良い思い出とは言えませんでした。
ですが、
カールはハンドルを切り、路肩に車を停めました。
「悪い。疲れて目が見えなくなっちまった。少し休ませてくれよ……」
「ええ、構わないわ」
私は風に当たるために車を下りると、進んで来た道路を振り返りました。
遠くに微かにお屋敷が浮かんで見えた様な気もしましたが、それも雲の陰りで消えてしまいました。
「……お爺様、お世話になりました。ありがとうございました」
誰ともなしに私はそう呟き、最後の別れの言葉を口にしたのでありました。
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