第18話 策略(第三者視点)
女子の武術試験の試験官をしていた女性教師は実技試験の結果を大まかに説明する。
「女子の試験参加者は例年通りの感じでしたが、王女殿下とその従者二名の実力は別格でした」
学園長は面白くなさそうに報告を聞いていた。元老院派としては王族の成績が悪い方が良いからだ。それでも王族に面と向かって対立するつもりはない。
「まあ、王女殿下と従者は最初から別枠です。殿下は騎士コースを選択していませんし、従者だけ騎士Sにしておいてください」
王女だけではなく従者も形だけの選択コースで、学園とは関係なく従者も特別騎士団から直接指導を受けることになる。成績が極端に悪ければ王家の評判を落とす材料になるが、学園長程度が何かできるわけでもない。
「わかりました。それともう一人凄いというか、……王宮特別騎士団の騎士に勝ったというか、…そんな生徒がいて、ソフィア様が試験官をされまして、いい勝負を……」
試験官をしていた女性教師は歯切れの悪い説明をした。彼女もアーリンの実力が本物だと感じていたが、色々なことがあり過ぎてどう説明したら良いのか困っていたのである。
「そんな逸材が!? その生徒の爵位は何だ?」
学園長は身を乗り出して尋ねた。爵位が高いとその生徒について口出しをできないが、爵位が低ければその生徒を有力な貴族に紹介したりできるので利用価値も高い。だからこそ学園長はまず爵位を尋ねたのである。
「准男爵家の生徒です……」
それを聞いた学園長は一瞬で頭の中で色々なことを考えていた。
准男爵程度の爵位なら圧力をかけて意のままにできると考えたのである。彼が懇意にする貴族にその生徒を紹介すれば紹介料なども手に入る。さらに上位の貴族などに紹介すれば生徒の貴族家にも色々と要求ができる。
「それならその生徒を騎士Sにしてください!」
騎士コースのSに生徒を入れ、学園長の息のかかった騎士などを専属の教師にして囲い込みをしようと学園長は考えて指示した。
しかし、指示をされた女性教師は困ったような表情で口を開く。
「それが……、その生徒は騎士コースを選択していません。それに……」
アーリンは魔術師を目指しているので当然騎士コースを選択していないし、武術関係の授業すら選択していなかった。そのことを女性教師は説明した。
「問題ありません、私が准男爵を説得します! 明日の午後に親御さんと一緒に呼び出してください」
派閥が違っていても准男爵なら説得できると学園長は考えた。それどころか相手が感謝して派閥が違っても引き込めるとまで考えていた。
「で、ですがその場でソフィア様が騎士団に誘っていましたけど、本人は冒険者になるからと断っていました!」
学園長は騎士団に誘われたと聞いてやられたと思った。騎士団はほぼ国王派閥で占められているからである。
しかし、本人が愚かにも冒険者になると断ったと聞いて呆れながらも、それなら逆に自分の出番だと学園長は考えた。
「学園は国のための人材を育成するためにあるのです! 才能のある若者が間違った道に進もうとしていたなら、それを正しい道に引き戻すのが我々の務めです!」
学園長は自分の目的を隠して女性教師を叱りつけた。女性教師は正論で攻められて反論もできず、顔を伏せてしまう。
そこに別の教師が会話に割込んできた。
「その生徒とはアーリンという生徒のことではありませんか? 彼女は魔術コースを選択していて、魔術試験でも王女殿下の次に期待できる生徒でした。レベル一桁であの実力なら魔術師として将来も期待できる人材です!」
「は、はい、アーリンというレベル一桁の生徒です」
レベル一桁と聞いて受付での出来事を学園長も思い出していた。
あの時は軽蔑の眼差しでその生徒のことを見ていたが、レベル一桁でそれほどの実力がとなれば逸材として間違いない。それも武術だけでなく魔術まで使えるとなると、どれほどの紹介料が手に入るのかと考えていた。
会議に参加していた教師も驚いて近くの教師たちと話を始めたので騒々しくなった。
「静かにしなさい! その生徒のことは私が直々に対処します。話を進めてください」
学園長はアーリンのことに意識を取られていた。それだからこそ、早めにクラス分けを終わらせてそちらに集中したいと考えていたのであった。
他の教師達もアーリンに興味はあったが、本来の目的を思い出して会議を進めるのであった。
その日の会議はアーリンのインパクトが強すぎたことで順調にクラス分けが進み、例年より早く会議は終わったのである。
学園長は会議が終わるとすぐにアーリンを囲いこもうと検討を始めた。そこでアーリンが最近噂になっているロンダ准男爵家の者だと気付いて苦々しい顔をする。
ロンダ准男爵家は国王派閥であり、男爵や子爵への陞爵の噂まである。だからこそ元老院派閥としてはロンダ准男爵家のアーリンを下位クラスに割当てようとしていたのだ。
学園長は元老院派閥のトップである元老院議長からの指示を思い出していたのである。
「でも惜しいな……」
学園長は無意識に呟いていた。指示はともかくうまくすれば派閥の利益になるのではないか、派閥の利益になるような説明をできれば、自分の利益にもなると一生懸命策略を考えるのであった。
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